フォーエバー・フレンズ -158ページ目

3、菜月のレシピー4

次の日も、ジュリはバイトだった。

午後4時にジュリがお店に到着すると、恭介はいつものように「出掛けてくる」と一言だけ言って、駆け足で外出していった。

「一体、店長はいつも何処に行ってるんだろ?」

そんな事を思いながら、ジュリは厨房へと向かった。

そして『菜月のレシピノート』を開くと、早速ワッフル作りにチャレンジしてみる事にした。

「ええと、まず・・・強力粉、薄力粉、ドライトースト、メープルシュガーをボールに・・・」

そう言うとジュリは、ノートを片手に黙々と準備を進めた。

「ええと・・・バターを溶けやすいように少し柔らかくしておいて、牛乳は温める・・・ふ~ん」

そんな事を言いながら、菜月のレシピ通りにシャカシャカとボールの中の生地のもとをかき回した。

するとレジの向こうで「あの・・・」と声が聞えてきた。

「えっ」

ジュリが振り返ると、そこには今日も菜月の姿があった。

「こんにちは」

「な、菜月さん・・・」

「ジュリさん。ここはワッフルのお店だから、生地は作らなくても冷蔵庫にあると思うわ」

「あ、そうかあ・・・」

「入っていい?」

「あ、うん」


菜月は厨房へ入ってくると、冷蔵庫の中からワッフルの生地を取り出した。

そして「これをワッフルメーカーで焼くの」と言うと、その生地の塊から、3つ程ゴルフボールぐらいの大きさでちぎりとった。

「ワッフルは生地が命。そして焼くタイミングも命」

そう言うと菜月は、その生地の塊をプニプニと軽く揉んだ。

「う~ん。ちょっと違うなあ・・・今は冬だから、バターと牛乳を少し多めにした方がいいのになあ・・・」


そして菜月はワッフルメーカーで生地を焼きだした。

「今は空気が乾燥しているから、2分弱で焼き上げる。夏なら2分強。このタイミングで味が変わるの」

「へえ・・・ワッフルって奥が深いんだ」

「そう、練り物は作る人によって、全く違うものになるの。陶器と同じで、使う素材はみんな同じ。人の技が素材を大きく変えるの」

菜月はいつもと違い、今日はとても多弁であった。

そして何かに熱中するような眼差しで、ひたすらワッフルを焼き続けた。


遂に菜月お手製のワッフルが出来上がった。


ジュリはそのワッフルを口の中へ入れてみた。

「おいしい・・・」

そのあまりにもの美味しさに、驚いてしまった。

それは店長が作ったワッフルよりも、遥かに上回る味だった。

「このワッフルに、生クリームや苺、ブルーベリーなんかを挟むと、美味しいワッフルケーキが出来上がるの。でもやっぱり味の基本は生地。ワッフルはこれで差がつくの」そう言うと、菜月はニコリと微笑んだ。




午後6時。

恭介がお店に帰ってきた。

するとお店は、この時間にしては珍しく混雑していた。

ジュリは忙しそうに袋詰めをしながら「店長、早く!お客さんが待ってるよ!」と言った。

「ああ、わかった」

そう言うと恭介もレジに立ち、ジュリと一緒にワッフルの袋詰めをし始めた。

「店長、早く早く!」

「ああ!」


そしてお店が落ち着くと、二人は後片付けをし出した。

恭介が厨房の掃除をしていると、お皿に乗った一枚のワッフルを見つけた。

そしてそのワッフルを手に取って、まじまじと焼き具合を見つめると「誰が焼いたんだろ?」と言った。

恭介がワッフルを手に持っているのを見て、ジュリは慌てて厨房へとやってきた。

「店長、それは!」

「食べていいか?」

「う、うん・・・」

恭介はワッフルを口の中に入れたみた。

冷めてはいるものの、外はカリっと、中はふんわり。そして程よい甘み。

それは他でもない。

菜月の作ったワッフルの味であった。


大学時代、菜月と恭介にはまだ愛というものが存在していた。

「恭介、このワッフル私が作ったの。食べてみて」

「へえ、美味しそうだなあ・・・」

「さあさあ、食べて」

「うん」恭介はそう言うと、菜月の作ったワッフルを口に含んだ。

そして思わず「美味しい!」と叫んでしまった。

「でしょ。私、ワッフルのお店やってみたいの」

「ワッフル?それだけのお店?」

「そう、ワッフルの専門店」


そんな事を思い出しながら、恭介はモグモグとそのワッフルを食べていた。

そして厨房に置かれたそのワッフルを食べ終えると、「ジュリ、これは誰が作ったんだ?」と聞いてきた。

「ええと・・・」

「誰が作ったんだ?」


『このお店の店長には、私のことは話さないで欲しいの・・・』


そんな菜月の言葉を思い出すと、ジュリは咄嗟に嘘をついた。

「あ・・・それ、私が作った・・・」

「ジュリが作ったのか?」

「う、うん」

「本当なのか?」

「うん・・・」




そしてその晩、ジュリは部屋のベッドに寝転がりながら、ずっと考え事をしていた。


どうして菜月さんの事、店長に内緒にしなきゃいけないんだろう?

菜月さんと店長の関係って一体・・・。


「ああ!もうわからん!」

そう言うと、ジュリはベッドの上をゴロリと転がった。