4、拒否 する魂ー1
ジュリの先輩であるエミは、天使歴10ヶ月の真面目な新米天使である。
そして今日もこの人間界に、浮遊する魂を迎えにきていた。
しかし、最近は天使界へ行くことを拒む魂が増えていて、エミはいつもそんな魂の扱いに困っていた。
「どうして天使界に来てくれないのですか?」
エミが迎えに来た魂の名は、『池上隆二』という男である。
「すみません。どうしても孫が成人する姿が見たいのです」
「でも・・・」
「お願いします!」
池上はそう言って、ひたすらエミに頭を下げた。
この池上という男は、5年前に癌で死亡した魂である。
享年57歳。顔はとても強面な悪人面だが、その顔からは想像できない程、とても礼儀正しい紳士である。
そんな池上にお願いされると、さすがにまだ若いエミは押しが弱いためか、その場で「う~ん」と言って考え込んでしまった。
そして結局今日も、池上を天使界へ連れて行く事が出来なかった。
ジュリが寮へ帰ってくると、エミが遊びに来ていた。
「ジュリ」
「エミちゃん!元気?」
二人はそう言って手を取り合って、人間界での再会を喜びあった。
「どうしたの?こんなところに来るなんて」
「うん。たまたま仕事で近くに来てたから様子を見に来たんだ」
「そうなんだ」
「ところでジュリ、総裁ご立腹だよ。勝手に出て行ったとか言って。連絡ぐらいしたほうがいいんじゃない?」
「ふん。誰があんなクソババアに」
そしてエミは、寮でコーヒーとお菓子をご馳走になった。
「結構天使界に行くのを嫌がる人いるんだよ」
「へえ、そうなんだ。でもどうして?」
「子供が成人するまでこの世の中にいたいとか、好きな彼女がいるとか・・・」
「ふ~ん」
そんな事を二人で言い合っていると、隣で黙々とお菓子を食べていた寮母さんが、突然口を開いた。
「最近の天使はだめだね」
「えっ?」
「そんな事してるから、浮遊霊がどんどんと増えていくんだよ」
「でも・・・」エミはそう言って、黙り込んでしまった。
「はっきり言うけど、人間なんてみんな嘘つきだよ。ごちゃごちゃきれい事ばかり並べるけど、本心は自分の事ばかり考えてるとんでもない生き物だよ。たとえ拒否されても強引に連れて行かないとだめなんだよ」
するとエミは天使界の法律手帳の『迎霊法』のページを開いた。
「おばさん、でもここに書いてあるのね。迎霊法 第11条 第1項天使は魂を迎えに行く時、魂を精神的及び肉体的に傷つけてはならないって。それに第3条の・・・」
「うるさい!」
寮母さんのその怒鳴り声に、ジュリとエミは驚き飛び上がってしまった。そしてカッと目を見開きながら二人を叱り飛ばした。
「そんな事言ってるから、人間界に浮遊霊がどんどん増えていくんだよ!大体あんたは法律と言うものを、仕事が出来ない言い訳にしてる。なんでもかんでも自分の都合のいいようによく履き替えるな!」
「でも!」
「エミ、あんたは法律を守るために天使をやっているのかい?」
「いえ・・・」
「違うだろ?この世の中で人生を全うした人をお迎えに行く。それが天使の存在する意味でしょ」
「はい・・・」
「人間とは、天国、地獄、もしくは生まれ変わる。この3つしか選択できない。これが人間の修行なの。大体天使界行きを拒否するなんて、その修行を怠っているのと同じ事」
あまりにもの正論に、エミは思わず下を向いてしまった。しかし寮母さんの説教は更に続く。
「私の現役時代の頃から、そう言って拒否する魂はいっぱいあった。でも私は、そんな奴らを力ずくでも天使界へと引っ張っていったよ。あんたは天使の仕事をしてるんじゃなくて、上のご機嫌伺いの仕事してるんだよ。若いのに本当情けない」
その日の夜中、ジュリの部屋で「ヒック、ヒック」と泣きながら、布団にもぐりこんで泣き続けるエミがいた。寮母さんにコテンパに言われて、相当ショックを受けていた。
「エミちゃん、もう泣かないでよ。本当あのババア、無茶苦茶言うから・・・」
「ジュリ・・・もし天使以外の仕事が出来るなら、私もうやめたい・・・」
「そんな事いわないでよ。私もその池上って言う人を、天使界に連れてくの手伝うよ」
「絶対に来ないよ。私、何度も何度も行ったもん」
しばらくすると、エミは泣きつかれるようにして眠りについた。