4、拒否 する魂ー6
結局池上は寮母さんに、完全にノックアウトされた。
そしてボロボロとなり縄でしばられた池上を、エミが天使界へと連れて行く事となった。
別れ際にエミは寮母さんに深く頭を下げた。
「おばさんごめんなさい」
「何が?」
「私、間違ってました。世の中をなんでもかんでも決まりごとで考えていました。でもそれは違います」
「うんうん。天使と言えども仕事というものは戦争なんだよ」寮母さんはそう言って、ふっくらとした顔をニコリとさせた。
「それとレナちゃん」
「なに?」
「私、自分より小さなレナちゃんが必死に池上と戦っている姿を見て、なんか自分が恥ずかしくなった。きっと私逃げてたんだ。やりたくない事を法律のせいにしてた。本当は自分がいけなかったんだ」
「えへへ、でもエミさんが助けにこなかったら、私、今頃死んでたかも」そう言うとレナは傷ついた体で、冬の夜空を見上げた。
しばらく経つと、エミは美しい翼を広げて、ノックアウトされた惨めな池上とともに天使界へと飛び立って行った。
そしてその池上の去り行く姿を見て、寮母さんは「地獄に行け!」と捨て台詞を吐いた。
ジュリは寮母さんの姿を見て、不思議に思っていた。
今まで規則と形式でがんじがらめだった天使界。
姿形こそ天使とは思えない程丸々と太っているが、その抜群の行動力と見識。
そんな寮母さんを見ると、なんとなく天使も悪くは無いように思えてきた。
すると寮母さんは夜空を見上げながら「私達、キャッツ・アイみたいだね」と言い出した。
「キャッツ・アイ???」
「この世の悪を懲らしめる、美人3人組って感じでさ」
「・・・」
さすがにジュリとレナは言葉を失ってしまった。
結局、池上に対して暴行をはたらいた寮母さんは、罪に問われる事はなかった。
この事件は即日、天使界の倫理委員会で審議され、池上の犯した犯罪の凶悪さからみて、妥当な行為であると判断されたのだった。
誰もが天使法に引っかかるような煩わしい事を恐れ、エミのように法律を言い訳材料として使っていた。
勿論エミだけが悪いのではない。
天使界の事なかれ主義体質が、このような浮遊霊の存在を生んだのだ。
どうしてこのような事になってしまったのだろうか?
数日後、ジュリはいつものようにアルバイトをしていた。
あの世に行くことを拒否する魂。
噂では聞いていたけど、本当にあったんだ。
だとしたら、この世で悪い事をしても、天使界行きを拒否すれば、裁かれる事はない・・・。
そんな事を考えながら、ワッフルを焼いていると、突如背後から「ジュリさん・・・」と声が聞こえてきた。
「うわあ!」
驚き振り返ると、菜月がいつものようにカウンターの前に立っていた。
菜月はいつも亡霊のように突然現れるので、毎回驚かされてしまう。すると菜月はジュリの焼きっぷりをみながら「随分腕があがってきたんじゃないの?」と言い出した。
「そ、そうかな?」
「うん。ちょっと食べてみてもいい?」
「う、うん」
菜月はジュリの焼いた小さなワッフルを口に含んだ。
そして「うん。おいしい」と言うと、何度もうんうんといった感じで頷いた。
そんな菜月の姿を見ていると、ふとジュリの視線が菜月の足元の方へと行った。
「ええ!」
ジュリは菜月の足元をみて、驚いてしまった。
菜月さんにも影が無い・・・。