5、少 年の思い出ー1
夕暮れ時、ジュリは寮の近くの住宅地を一人歩いていた。
菜月さんにも影が無かった。
つまり菜月さんも浮遊霊・・・。
でも菜月さんには生気がある。
何故だろう?
そんな事を考えながら、ジュリはボーッとしながら夕暮れの住宅地を歩き続けた。
結局その事について、菜月に何も聞くことが出来なかった。
そして「はあ、本当に浮遊霊って多いんだなあ・・・」と、そんな独り言を言いながら歩いていると、公園のベンチに一人寂しく座っている少年を見つけた。
なんとその少年にも影が無かった。
そして普通の人間にはその少年の姿が見えないのか、周りを遊ぶ子供達はその霊の存在に全く気が付かず、ただひたすらすぐ側でボール遊びをしていた。
「あの子も浮遊霊かあ・・・」
そう言うとジュリは、何かに引き寄せられるように歩いていき、そしてその少年の側にちょこんと座った。
「僕」
ジュリがそう言って声を掛けると、少年は「えっ?」と言って驚き目を見開いた。
「どうしたの?」
「えっ?お姉ちゃん僕の事が見えるの?」
「見えるよ」ジュリはそう言うとニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、お姉ちゃんは天使なの?」
「ううん。天使になる前・・・ええと見習いってとこかな。この世界に勉強しに来てるんだ」
「そうなの。じゃあ、僕を迎えに来たんじゃないんだね」
「うん。それに私、今羽根を骨折してるから飛べないし」
「えっそうなの?」
「人間界に来る途中に、落っこちちゃって。あはは、バカでしょ」ジュリはそう言うと、笑って空を見上げた。
「そっかあ・・・」
「ねえ、僕はあの世には行かないの?」
「うん、いかない」
「どうして?」
「最後にお父さんとお母さんに会いたいんだ」
「お父さんとお母さん?」
「うん」
「何処にいるの?」
「それが・・・わからないんだ。近所のアパートの一階に住んでいたんだけど、いつの間にか引っ越してしまったんだよ」
「そっかあ・・・」
「天使のお姉ちゃんがいつも迎えに来るんだけど・・・僕、最後にどうしてもお父さんとお母さんに会いたいんだよ」
ジュリは、その少年の寂しげな顔をしばらく見つめていると「じゃあ、お姉ちゃんが探してあげようか?お父さんとお母さん」と言って、ニコリと微笑んだ
「えっ、本当?」
「うん」ジュリはそう言うと、笑って頷いた。
寮に帰ると、ジュリは夕食を食べながら、早速その少年の事を寮母さんとレナの二人に話してみた。
「木下真澄君と言って、4年前に交通事故で亡くなったらしいんだ。亡くなった時は9歳だって」
「ふ~ん」レナは箸をくわえながら、意味深にジュリの話を聞いていた。
「それでね、今週の日曜日に、その子の親探しをしようかと思うんだ」
ジュリが言うと、寮母さんは、パシっと音をたててテーブルの上に箸を置いた。
そして「やめときな」と一言。
「えっ?」
「やめときな」
「どうして?この間、浮遊霊が多いのを問題だって言ってたじゃん」
「両親とは会わないほうがいい」寮母さんはそう言うと、黙って目を閉じた。
「だから何でって聞いてるじゃん」ジュリが、寮母さんに食い下がるように言うと、寮母さんは少しため息をつきながら話し出した。
「あのねえ、人間の親子の関係なんてモロいものだよ。その子の両親はきっと、その坊やの事なんてもう忘れてるよ。親なんかと会わせたらその子は逆に傷つく」
「そんなのわからないじゃん」
「まあ、やりたきゃどうぞ。でも私はそんなもんには絡まない。子供の浮遊霊なら無害だから、現役の天使に任せときな」
冷たげにそう言うと、寮母さんはゆっくりと席を立った。
そしてしばらくの間沈黙が続いた。
ジュリが、その沈黙を裂くように「あのババアほんとあったまくる・・・」と言うと、レナは急にすまなそうな表情をした。
「ジュリごめん・・・今週、私行けないんだ」
「えっ、どうして?」
「実は・・・デートなんだ」
「えええ!人間と?」
「うん」
「それって禁止じゃ・・・」
「うん。でも折角人間界に来たんだから、ちょっとぐらい男の人と一緒に遊んでみたいんだ」
レナはそう言うとスマなさそうに笑った。
「大丈夫?ヤバくない?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと映画見るだけだから」