5、少 年の思い出ー3
「あの・・・」
ジュリが駄菓子屋のおばあさんに声を掛けると、そのおばあさんは全くの無反応。
どうやら耳が遠いようだ。
「あの!」
「・・・ああ、なんだい?」
ジュリの大きな声に、おばあさんはようやく反応した。
「あの・・・木下真澄君て言う子、知ってますか?」
「はい?」おばあさんはそう言って、ジュリに補聴器をつけた方の耳を向けた。
「木下真澄君て言う子知ってますか?」
「ああ、真澄君かい。知っているよ。あのかわいい子だねえ。確か事故で死んだとか・・・」
なんとおばあさんは、真澄君の事を覚えていたのだった。
「お、覚えていたのですか?」ジュリはビックリした。こんなおばあさんが、4年前に数回しか来ていなかった真澄君の事をしっかりと覚えていたのである。
「ああ、忘れないよ。子供の顔なら60年前に来た子までしっかりと覚えているよ」そう言うとおばあさんは、しわくちゃの顔をさらにクシャっとさせて笑った。
「あの・・・真澄君のご両親が何処に行ったのか知りたいのですが・・・」
「なんだもういないのかい?それならこの裏に河村さんと言う人が住んでるよ。その人ならきっと知っているはずだよ」
「え?どうしてですか?」
「真澄君の通ってた小学校の校長先生が住んでいるんだよ」
「え!本当ですか?」
「ああ、間違いなく校長先生だよ」
「あ、有難うございます」
真澄君の親探しのヒントとなったのは、なんと駄菓子屋のおばあちゃんであった。
多くの人が集まる大都会の東京。
しかしそこに住む人達の近所付き合いは皆無な状態であり、4年前の事を知ってくれていたのは、昔から駄菓子屋を営む、このおばあちゃんであった。
そして二人は、真澄君の通っていた小学校の校長先生と会う事が出来た。
「こ、校長先生だ・・・」
真澄君は久々に校長先生の姿を見て、なんとなく懐かしい気持ちになった。
「ああ、木下君かあ。そうそう交通事故で亡くなったんだよ。可哀想だった」
「実はその子の両親を探してまして・・・」
「う~ん・・・確か真澄君が死んでから2年後に横浜へ引っ越すとか言って・・・」
「住所わかりませんか?」
「う~ん・・・教育委員会に聞けばわかるかもしれないけど、最近は個人情報なんたら法とかがあって、なかなか教えてくれないんだよ」
「そうですか・・・」ジュリはまたしてもガックリと肩を落とした。すると校長先生は突如思い出したかのように「ん?いや、わかる!わかるよ!」と言って手をパシッと叩いた。
「え?本当ですか?」
「そうそう。真澄君のご両親が引っ越して行った後に、暑中お見舞いが届いたんだ。『その折はお世話になりました』とか書かれていて。ちょっと待ってて」
そう言うと校長先生は、部屋の奥へと入って行った。
そしてしばらくすると一通の暑中お見舞いを持って、二人の待つ玄関先へと戻ってきた。
「これこれ。ここに今の住所が書いてあるよ。神奈川県横浜市戸塚区・・・」
「本当だあ。やった!」
ジュリはそう言って、ガッツポーズをした。
遂にジュリは、真澄君のご両親の住所をつき止めた。そして二人は真っ暗になった大森の住宅地を歩いていた。
「お姉ちゃん。本当に横浜までついてきてくれるの?」
「うん。来週の日曜日に一緒に行ってあげる」
「ありがとう」
「じゃあね真澄君」
「うんまたね」
そう言って二人は、いつもの公園の前で別れた。