フォーエバー・フレンズ -147ページ目

5、少年の思い出ー5

次の日、ジュリはいつものようにアルバイトをしていた。

「ジュリって本当にワッフル焼くの上手いなあ」恭介はそう言いながら、ジュリの焼いたワッフルを、口に含んでいた。

しかし当のジュリはボーッとしていた。


「おい、ジュリ」

「あ・・・なに?」

「どうしたんだよ。ボーッとしてさあ」

「ううん。なんでもない」

ジュリはそう言うと、再びワッフルを焼きだした。すると突然何かを思い出したかのように「ねえ店長、交通事故で子供死なせたら1億円ぐらい払わなきゃいけないの?」と聞いた。

「なんだよ急に」

「いいから教えてよ」

「そりゃあ、子供を死なせたら高くつくよ」

「どうして?」

「生きていた場合の推定所得ってあるだろ?例えば大学出て、就職して、それから定年までの何十年か分の所得ってのを計算するんだよ。そして精神的苦痛等を含めて賠償額を計算する。そしたら1億以上にはなるよ」

「それじゃあ、お年寄りを死なせたら?」

「もちろんお金は安くなる」

「どうして?」

「そりゃ、今後見込める所得が無いからだよ。そうやって保険会社は、人の命に値段をつけるんだ。こうやって電卓を叩いてね」

恭介はそう言って、手に持っていた電卓をジュリに見せた。

「そんなあ・・・」



命とはお金には変えられないかけがえないもの。

学校の倫理教育の授業では、誰しもがそう教わる。

しかし命の値段というのは存在する。

大学卒業ならいくら?

高校卒業ならいくら?

子供ならいくら?

お年寄りならいくら?

それはまるでクラウンとカローラ、もしくは新車と中古車の値段の違いのようだ・・・。

そして人の命はまるで減価償却のように、毎年毎年価値が下がっていく。

人の命とは、お金に変えられる物だった。







日曜日、ジュリは浮遊霊の真澄君を連れて、横浜へと向かった。

果たして真澄君のご両親に会えるだろうか?

そんな心配をしながら、ジュリは電車の窓の外に見える、多摩川の景色を見つめていた。


JR戸塚駅を降りてバスで15分。

暑中お見舞いに書かれていた住所。ナビウォークを頼りに、やっとの思いでたどり着いた場所。そこは、横浜市内にしてはかなり高額と思われる、高級マンションが聳え立っていた。

4年前まで、大森の古いアパートに住んでいた真澄君の両親の生活は、あの事故から一変していた。


ジュリは恐る恐る、入口のインターホンを押してみた。

すると「はい」と中年男性の声が、インターホン越しに聞こえてきた。

「あの・・・私、羽田っていいます。真澄君の事で・・・」

ジュリがそう言うと、通話がブチッと切れてしまった。

「あれ?切れた」

それから何度も何度もインターホンを押したが、誰も出てこなかった。

「どうなってるの?」

ジュリがそう言ってうなだれていると、横にいた真澄君が「今の、お父さんの声だよ」と言った。

「そうなの?」

「うん、間違いないよ」

「どうしよう。マンションの前で出て来るの待ってみる?」

「でもお姉ちゃん寒いでしょ?僕は幽霊だから平気だけど」

「ううん。大丈夫。コート着てるから寒くないよ」ジュリはそう言うと、真澄君にニコリと微笑んだ。


しばらくの間ジュリと真澄君は、マンションの中庭の公園のベンチに、肩を並べて座っていた。


『真澄君の事で』

それを言っただけで通話を切られてしまった。

一体真澄君のお父さんに何が起こったんだろう?


そんな事を考えていると、一組の家族連れがマンションの公園へとやってきた。

その3人の家族連れの姿を見て、真澄君は咄嗟に「お父さんだ!」と言って目を輝かせた。

「えっ?そうなの?それじゃあ、隣にいる人はお母さん?」

すると真澄君は、黙り込んで下を向いてしまった。

「どうしたの?」

「違う・・・あの人、お母さんじゃない・・・」

「えっ?」


真澄君のお父さんと、隣にいる見知らぬ女性。

そしてその二人の間には、2歳ぐらいの小さな女の子の姿があった。