10、そばにいてくれた人(3)
恭子は既に意識を取り戻していた。頭がガンガンするものの、精密検査の結果、なんとか後遺症はまぬがれそうだった。しかし、怪我よりも心の傷の方が深刻だった。とにかくこんな恐ろしい思いを今まで経験したことがなかった。ただでさえ臆病な恭子。とにかく不安で不安でしょうがなかった。
綾乃がつきっきりで看病するも、恭子の表情は依然として曇っていた。
「恭子、元気だしなよ」
そう言って恭子は励ますも、ずっと黙っていた。そして「怖いよ・・・」と小さな声でつぶやく。
「うんうん」
「怖いよ。もう表に出られない・・・」
「もうすぐノンちゃん来るよ」
「会わない・・・」
「恭子・・・」
「野島さんは届かない人。絶対私なんかと吊りあわないよ。会えば辛くなる」
「そんなのわかんないじゃん」
「いいの・・・もういいの・・・」
もう完全に精神的に参ってしまっていた。綾乃もどうしていいかわからず、思わず下を向いてしまった。
そして恭子は「仕事辞める」と小さな声でつぶやいた。
「どうして?」
「もう六本木ヒルズに行けないから・・・怖いから・・・」
「辞めてどうするの」
「退院したら福岡に帰る。親から帰ってきてもいいって言われたし」
「恭子・・・」
「実家で暮らしたいの。一人暮らしはもういや・・・」
師走の東京の街は、交通量も多く連日の如く大渋滞。
西原開発工事は公共工事のピークを迎え、かなり日程が押し迫っていた。
11月に2,000万円もの売り上げを記録し、今月中旬には約束手形を頂ける事となった。12月はそれにさらに輪をかけた忙しさ。しかも2班体制。頑張って工事をこなせば、4,000万円の売り上げにはなるだろう。
圭一郎は、そんな毎日を必死に送っていた。しかしそんな中でも、恭子の事がずっと気になっていた。
綾乃から聞いたところ、恭子は明日にでも退院できるそうだが、相変わらず面会には応じてくれないのである。
『恭子はノンちゃんの事が好きなんだよ』
綾乃の言った言葉がずっと耳から離れなかった。恭子がそのように自分を見ていてくれたとは思ってもみなかった。
いつも側にいて、いつも一緒に食事をしに行き、そしていつも一緒に頑張って仕事をしていた。
工事を終えて事務所に戻ると、優太が社長席に座りながらテレビを見ていた。
「おう、おかえり」
「ただいま」
圭一郎は元気の無い挨拶をした。すると優太が「今日も恭子ちゃんと会えないのか?」と聞いてきた。
「ああ。俺とは会わないと言ってるからさ」
「じゃあ、なんで無理矢理会いに行かないんだ?」
「・・・」
「お前は恭子ちゃんに会いたいって思ってるんだろ?ならば無理矢理にもでも会いに行けよ。俺、お前のそういうところ一番嫌いだ。人の顔色ばかり伺ってさ。流されてばかり。大体丸和の社長ぶん殴る勇気があるんだったら、ずっと一緒に頑張ってきた女に会いにいく勇気ぐらいあるだろ?」
「・・・」
圭一郎は何も言えずに黙り込んでしまった。