10、そばにいてくれた人(2)
翌朝、圭一郎は、なんと六本木ヒルズの丸和工務店本社を訪れた。突然の御曹司の訪問に、社内は騒然となってしまった。
この一件は、普通の警察に言ってもどうせ取り合ってくれないだろう。ならば単身で六本木ヒルズに乗り込むしかなかった。
今日圭一郎がここへ訪れた理由。それは一連の事件に対し、青田社長に対して抗議する為だった。
社長室へ通された圭一郎は、まっさきに青田へと食って掛かった。
「誰かを使って宇佐美恭子さんを襲撃させたのは、あなたですね」
「え?何を言ってるんですか?失礼な話ですね。名誉棄損で訴えますよ」
すると圭一郎は「イー・フラッシュ・ネット。この会社にシステム開発費の名目で送金してますよね」と言って、恭子が持っていた書類を青田に見せた。
「システム開発中なんですよ。全世界の工事進捗状況をリアルタイムで確認する為に・・・」
「じゃあ何故社内でプロジェクトチームを作らないのですか?」
「大きなお世話です。あなたは部外者なんですから、経営には口を挟まないでください」
「一応は株主です」
「それでは、株主総会で言っていただきたい。お帰りください」
「彼女にお詫びをしてください。でなければ帰りません」
「やってもいないことにどうしてお詫びをしなければならないのですか?」
そういうと青田は社長室からそのまま出ようとした。するとその時、圭一郎は咄嗟に青田の肩をガッとつかんだ。
「青田さん」
「なんですか?」
無愛想な態度をとる青田。それを見た圭一郎は一気に感情が爆発してしまった。
そしてなんと思いっきり青田を殴り飛ばしてしまったのだ。
圭一郎に殴り飛ばされた青田は、そのまま社長室の壁にボンとも叩きつけられ、そのままズルズルと壁にもたれかかるようにして倒れて行った。すると部屋の外から次々と社員が入り、必死に圭一郎を諌めた。
「やめてください!」
「うるさい!こいつは人じゃない!人の心なんて持ってないんだ!」
「野島さん!やめてください!」
「とめるな!」
社長室はもう騒然となってしまった。
青田を殴った事により、圭一郎は田園調布の実家へと呼び出された。前社長であり、会社のオーナーでもある圭一郎の父は、この件でかなりご立腹だった。
「何故青田に暴力をふるった?」
「・・・」
「いつまでも子供気分でいるな!」
圭一郎は何も言えなかった。カッとなって思わず殴ってしまった。暴力に訴える事など、人として最低行為である。しかし恭子に対しての仕打ちは、どうしても許せなかったのだ。
「青田が言うには、システム開発費を咎められたと聞いた。丸和を出て行ったくせして、何故経営に口を挟むんだ」
「・・・」
「黙っていたら何もわからんだろ!」
圭一郎は何も答えようとはしなかった。どうせ自分が父に対して何を言おうとも、父の青田への信頼は揺るぎないからだ。そして圭一郎は「何も言うことはありません。聞く耳の無い者に何を話しても時間の無駄ですから」と言って、すっとその場を立ち上がった。
「なんだと!圭一郎!もう一回言ってみろ!」
「聞く耳を持たない者に話すのは時間の無駄です。あなたの結論は、青田さんが正しいで決まっている。違いますか?」
「貴様・・・」
自分の実の子からここまで侮辱を受けたのである。父は完全にキレてしまった。しかし、圭一郎はさらに父をまくし立てた。
「一人の人間を神と思って信頼していると、いずれ大変な目に遭いますよ。ご自身でよく反省された方がよいのでは」