10、そばにいてくれた人(5)
恭子が博多駅に到着した時、時刻は既に夜の10時になっていた。
旅行用カートをコロコロと転がしながら改札口を抜けると、そこには故郷の街並みが広がっていた。
「ついた」
そう言うと恭子は、そのまま博多駅前のオーロラビジョン前まで歩いて行った。
すると突然、誰かに後ろから肩をポンポンと叩かれた。驚き振り返ると、なんとそこには圭一郎が立っていたのだ。
「野島さん!」
「恭子ちゃん、東京に帰ろう」
二人は、中須の屋台の見える橋の上をぼんやりとしながら歩いていた。
12月の中須の屋台街は、あちらこちらから湯気が立ち上る。川沿いに明かりを灯す沢山の屋台。とんこつラーメンの匂い。
「故郷の空気だ」
恭子はそう言うと、故郷の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「なつかしい・・・屋台の香り。やっぱり故郷っていい・・・」
恭子はにっこりと笑いながら、久々に帰ってきた故郷の景色を見つめた。そしてふと昔話を始めた。
「私ね、東京の大学行くって行ったら、親に猛反対されたんだ・・・」
「どうして?」
「東京に行ったら遊ぶから福岡の大学に行けって。でも、東京の街で暮らしたかったの。そう、今見たいに六本木ヒルズで働けたらいいなって思っていた。でもイザ働いてみると、理想と現実って違うんだね」
「そうだね・・・」
「最近思うんだ。一番の幸せって何かなって?何だかんだ言ったって、好きな人がいて、地味だけど地に足のついた暮らしをする事が一番幸せなのだと思う」
そう言うと恭子は、故郷の夜空を見ながらほほ笑んだ。
そして橋を渡りきったその時、圭一郎はふと立ち止まった。
「恭子ちゃんが好きだよ」
「え?」
「結婚前提で付き合ってほしい」
「野島さん・・・」
「もう絶対に泣かせないし。絶対に大切にする。だからこれからも、これからも・・・ずっと俺の側にいて欲しい。まだまだ頼りない男かもしれないけど、全力で恭子ちゃんを守るよ」
すると恭子は不意に涙をこぼした。
「き・・・恭子ちゃん・・・」
「どうしてこんなに待たせるの・・・」恭子はそう言って、両手で顔を覆い隠した。
「恭子ちゃん・・・」
「ずっと・・・ずっと・・・野島さんの事好きだったんだから。ずっと待っていたんだから。ずっと苦しかったんだから。本当に辛かったんだから・・・ひどいよ野島さん・・・ひどいよ野島さん・・・」
「ごめん。でも、もう絶対に辛い想いさせないから。絶対に幸せにするから」
そんな圭一郎の言葉を聞きながら、恭子はひたすらひっくひっくと泣き続けた。
そしてその日の晩、圭一郎は恭子の実家に行き、挨拶をしてきた。「結婚前提でお付き合いさせてください」と。