11、創業家一族として(2)
『北朝鮮不正送金』
拉致問題等を抱える日本では、これは大きなスキャンダルである。
捜査員が入れ代わり立ち代わり入る、丸和工務店の社長室。青田はぼんやりとしながら窓の外の東京の夜景を見つめていた。
青田は甘かった。国交省や政治家は抑えてはいたものの、まさか公安警察がマークしているとは思わなかったのだ。
「ボン・・・お前の勝ちだ・・・人事尽くして天命を待てり。お前の生き方が正解だ・・・」
そう言う青田の表情は、自分の人生の全てが瓦解したかのようだった。
そして翌日未明。青田への逮捕状が東京地裁から出された。
翌日の新聞も、丸和工務店スキャンダルで持ちっきりだった。
どの新聞紙も一面に『丸和工務店 青田幸介社長 逮捕』の文字。
テレビでは今朝早く逮捕されてしまった青田社長の姿が映し出されていた。警察手配の黒いセダンの後部座席に乗せられ、沢山の報道陣のフラッシュにカメラに囲まれる。パシャパシャと焚かれるフラッシュで、顔が真っ白に見える程だった。
西原開発工事は、今日は2班の仕事が無かったので、4人全員で一つの工事をしていた。
そして休憩時間も作業中も、みんなの話は丸和工務店一色。
「野島さんの実家大変じゃん」吉村がそういうものの、圭一郎は、我関せずと言った顔で、黙々と溶接作業をする。
「でもさ、この青田って奴逮捕されたら、今度は野島さんが社長じゃないのか?」
すると圭一郎は、溶接面を取って吉村に「社長の変わりなんていくらでもいるよ」と言い、再び溶接を開始した。
圭一郎は、もう丸和工務店の事等どうでもよかった。会社としての基礎があるので誰でも社長が出来るだろうぐらいしか考えていなかった。
恭子とともに幸せに生きる。西原開発工事を大きくする。今の圭一郎にとって、まずそれが優先課題だった。
優太は優太で、ずっと難しい顔で考え事をしていた。腕組みをして仁王立ちする姿。少し前までは、ギャハハと言ってよく騒いでいたのだが、最近は妙に社長らしくなってきた。
丸和工務店では緊急株主総会が開催されていた。とにかく青田の次の社長の選出をしなければならなかった。
青田を推した東京DL投資信託は、完全にメンツを潰された形となってしまい、終始黙っていた。勿論筆頭株主である圭一郎の父も、完全に意気消沈していた。青田を一番推したのは、圭一郎の父だからである。
そして今回一番意見を口にするのは、メインバンクの太陽総合銀行であった。なにせ、青田の社長就任には当初から反対していたからである。そして太陽総合銀行の頭取は、筆頭株主の圭一郎の父に対して厳しい注文を付ける。
「野島さん。あなたが執行役員の生稲さんを社長にするというのはわかりました。了承します。しかし、当行としてはそれだけでは認める訳にいきません」
「何故ですかな?」
「100億円もの債務保証を、創業家一族無しでは認める訳にはいけません。今回の件で株価が暴落する事でしょう、そうなると当行としても相当な損害を被る事となります。役員人事には、債務保証の出来る創業家一族の方を一人据えてください」
「しかし、親族と言っても私は病気で・・・」
「それではご長男の圭一郎さんを、復帰させてください。とにかく今の丸和工務店に求められるのは、経営の透明性とコンプライアンスです。実績のあるご長男しかいないでしょう」
なんとメインバンクが、圭一郎を推したのだ。別に圭一郎をかっているからではない。これは創業者一族としての債務保証の人質であった。