フォーエバー・フレンズ -141ページ目

7、孤高のフィギュアスケーター1

「ジュリ、一度自分で新製品を作ってみろ」


閉店間際に、恭介にそう告げられたジュリは、とても嬉しい気持ちになった。

今までは恭介の言うとおりに、ワッフルを焼いていた。しかし今回初めて、自分なりのワッフルを作る事となったのだ。

人間界へ留学してきてはや1ヶ月、それはジュリにとって大いなる前進であった。

「うん!」

そう言うとジュリは大喜びで寮へと帰って行った。


寮へ帰ってくると、寮母さんとレナがテレビの画面を食い入るように見つめていた。

「何見てるの?」

ジュリのその問いかけに、二人は無視するかのようにテレビ画面を見つめていた。

「ねえねえ」

「うるさい!」寮母さんはあいも変わらず口の悪い天使であった。

ジュリは少しふてくされ気味に、テレビ画面を見つめた。するとフィギュアスケートの中継をやっていたのだった。

「なんだ、フィギュアか」ジュリが冷めたようにそう言うと、レナが「違うよ霊がいるんだよ」と言って、再びテレビ画面を見つめた。

「え?どこどこ?」

テレビ画面の向こうは、選手達が本番前練習を行っていた。しかしジュリには誰が霊だかさっぱりわからない。

すると寮母さんが画面を指差して「ほら、一人だけ影がないだろ」と言った。

「うん?」ジュリが興味本位にテレビ画面を見つめると、なんとそこには一人影の無い選手がトリプルアクセルを行っていたのだ。

その影の無い選手は、大きな瞳に、真っ白な肌、ふんわりとボリューム感のある髪を後ろに束ねていた。

とにかくその霊はとても美しく、そしてジャンプの高さと華麗さは、素人が見てもわかるほどに他の選手を圧倒していた。

「誰これ???」ジュリがそう言うと、レナが自慢げに話し出した。

「この間のグランプリファイナルで、この霊始めて見つけたんだ。たまたまかなと思ってたら、毎回この霊、会場にいるんだよ。なんと全大会出場」

「そうなんだ・・・で・・・こんな凄いジャンプするんだから、生前は有名な選手だったんでしょ?なんて選手なの?」

ジュリがそう問いかけると、レナは首を横に振った。

「それが・・・わからないんだ・・・天使界でフィギュアスケートの中継なんてないし」


どの選手よりも美しく豪快にジャンプするこの霊。しかしその正体は、誰にもわからなかった。

「おばさん知らないの?」

「知らないよ。私、フィギュアスケートなんて見ないもん」

「そっかあ・・・」

そして選手達の演技がスタートすると、その霊は大人しく客席へと戻り、そして競技の合い間合い間にリンクへやってきてトリプルアクセルや、ダブルトゥーループを行ったりする。

霊が見えるこの3人は、不思議そうな表情で、そのフィギュアスケーターの演技を見つめ続けた。


そして全競技が終了し、一位の選手にメダルが授与された。

しかしその表彰式をテレビで見ていた3人は、少ししらけていた。

どうみてもあの霊の演技の方が美しかったからだ。


その日の晩、ジュリはなかなか眠りにつけなかった。

どういうわけか、あの美しきフィギュアスケーターの存在が、ずっと頭から離れなかったからだ。




次の日、バイト先でいつものようにジュリがワッフルを焼いていると、恭介が「ジュリ、新製品開発できそうか?」と声を掛けてきた。

「まだだよ」

「そっか。まあゆっくり考えろ。時間はたっぷりあるしな。ところで昨日フィギュアスケート見たか?」

「うん。見たよ。江口真理って言う子が優勝したよね」

「ああ、でもなあ、オレからしたらちょっと物足りないんだよな。松井恵理菜に比べてさあ」

「松井恵理菜?誰それ?」

「知らないのか?伝説のフィギュアスケーター松井恵理菜」

「知らない。誰それ?」

「7年前に一試合だけ国際大会に出たんだけど、あの時の演技は本当に素晴らしかったよ。あれを上回る演技が出来る奴なんて、きっといないよ」

「でも昨日の試合、そんな人出てなかったよ」

「死んだんだよ」

「えっ、死んだ?」

「ああ、7年前にな。でも、もう一度松井の演技を見てみたいなあ」

恭介はそう言うと、当時の松井恵理菜の演技を思い出すかのようにして、目を閉じた。

「ねえねえ。その人なんで死んだの?」

「自殺したんだよ。首吊って」

「じ、自殺!」

「まだ16歳だったよ。可愛そうになあ・・・」