フォーエバー・フレンズ -132ページ目

8、たった1ミリの進歩ー6

そしてその晩、恵理菜は最後の練習を行った。

銀板の上で美しくターンする恵理菜、こんなに素晴らしいフィギュアスケーターは今のこの世の中には、誰一人としていない。

そんな美しい演技を目の当たりにした、ジュリとレナとエミは、リンク横でウットリとしながらその演技を見ていた。

「きれい・・・絶対に金メダルだよ」フィギュアの中継をしょっちゅうみている、目の肥えたレナは、思わずそう言ってしまった。



そして練習を終えると、全員スケートリンクの駐車場へとやってきた。

「エミさん。そろそろ行きましょうか?」恵理菜がそう言うと、エミは優しい笑顔で小さく頷いた。

「ねえ、私、自殺したから、やっぱり地獄に行っちゃうんだよね」恵理菜が不安気な表情をしながら言うと、エミは首を横に振った。

「大丈夫。ちゃんと倫理委員会に報告したよ。過酷なレッスンによる鬱病での無意識な自殺として認定された。だから多分生まれ変わりだと思うよ」

「そっかあ・・・またやり直しかあ・・・」そう言うと、恵理菜は寂しげに夜空を見上げた。

するとジュリが「ねえ恵理菜さん、次は何に生まれ変わりたい?やっぱりフィギュア選手?」と聞いた。

しかし恵理菜はそのジュリの問いかけに、ゆっくりと首を振った。

「もういいの」

「えっ?」

「フィギュアはもういい」

「じゃあ何するの?」

「そうだなあ・・・次は男の人になりたいなあ・・・」

「男???」

「うん。プロサッカー選手」

そう言うと恵理菜は夜空を見上げて笑った。



そして恵理菜はエミに連れられて、天使界へと去っていった。


ジュリとレナは去り行く恵理菜の姿を、じっと見つめていた。



「行っちゃったね・・・」レナが寂しげにそう言うと、ジュリは夜空を見上げながら小さく頷いた。

そして何かを決意したかのように話し出した。

「黙って待っていたらだめなんだ」

「えっ?」

「恵理菜さんも真澄君もそう。きっと伝えたい事があるんだよ。きっと聞いて欲しいことがあるから、この世の中で彷徨い続けているんだよ。黙ってそんな人達を見ていたらだめなんだよ。自分から突っ込んでいかないと駄目なんだ」

「ジュリ・・・」

「菜月さんは私に寄ってくる。それは菜月さんにもきっと伝えたい事があるはずなんだ。だから私は菜月さんに話を聞いてあげなきゃだめなんだ」



次の日、ジュリがバイト先へとやってくると、いつものように恭介は「ジュリ、留守番頼む」と言って、お店を出て行った。

そしてしばらく経つと、いつものように菜月がやってきた。

「ジュリさん、こんにちは」

「菜月さん・・・」

「今日も一緒にワッフル作り頑張ろうね」

「菜月さん、その前に聞きたい事があるんだ」

「なに?」

「どうして菜月さんには影がないの?」

「えっ?」

「菜月さんは霊なんでしょ?きっと菜月さんの姿は私にしか見えないはず」

「・・・」

「話を聞かせて。どうして菜月さんは霊なのに生気があるの?」






そんな中、恭介は品川の病院にいた。

そしてその病院の一室で、脳死状態となっている一人の女性の介護をしていた。

人工呼吸器によってかろうじて生きている命。

体中にあちらこちらに通された管。

それは、本来なら死に行く者を、現代の医療技術により、無理矢理にも生かしているような光景であった。

そしてベッドには、その脳死状態の女性の名前が書かれてあった。



『喜多嶋 菜月』



そう、脳死状態の彼女の名前は、喜多嶋菜月と言う。