フォーエバー・フレンズ -129ページ目

9、伝えたかった言葉ー3

ジュリと菜月は、夕暮れの平和島の海へとやってきた。

最近は日が延びて、午後5時でも少し明るくなってきた。

そして二人は、これから日が落ちようとする海を、ずっと見つめていた。

「おどろいた?」菜月は不安そうな顔をするジュリに、優しく問いかけた。

「うん・・・」

「一応は生きているの。でも私の体は完全に停止していて、人工呼吸器でかろうじて血だけが流れてるの」菜月はそう言うと、寂しげな顔で夕暮れの空を見上げた。

「私の姿は誰にも見えないはず。でもジュリさんは私の姿を見る事ができた。だから咄嗟に思った。ジュリさんは天使なんだって」

「菜月さんに天使のお迎えは来ないの?」ジュリがそう聞くと、菜月は首を横に振った。

「どうして?」

「生きてるとみなされているから・・・」

「でも魂はぬけてるじゃん」

「ううん。天使は私を、あの世に連れて行こうとはしないの。生きている霊は連れて行けないって言われて・・・」


天使法第27条、第6項目。

死の定義

死とは、心肺が停止した状態の者の事を言う。よってこれに該当しない魂は生霊といい、天使界に導くことは出来ない。


菜月はこの法律が理由で、天使界へと導かれない浮遊霊となっていた。


「そんなのあんまりじゃん。じゃあ菜月さんはこのまま浮遊霊に・・・」

「うん。何度も死のうと思って、人工呼吸器を切ろうとした。そしたら跳ね返されるの・・・」

「魂になってしまったら、人の運命を変えられなくなるんだ。だから跳ね返されるのだと思うよ」

「ねえジュリさん。お願いがあるの。ジュリさんが天使界に帰る前でいいから、私の体についている人工呼吸器を止めてくれないかな?」

「えっ?」

「自分の為じゃないの・・・毎日私の介護をする恭介が可哀想なの」

「店長が?」

「そう、恭介は私の夫・・・恭介は毎日病院にやってきて、私の介護をしてくれる。でも、それが可哀相なの・・・」

「そうだったんだ。それじゃ、店長はいつも夕方、病院に行っていたんだ・・・」

「ねえ、人工呼吸器止めてくれないかな?私の体をいい加減死なせてくれないかな?」




『天使は人の運命を変えてはいけません』




ジュリはそんな天使界の掟を思い出すと「それは無理・・・天使は人の運命を変えられない・・・」と言って下を向いた。

「そっかあ・・・やっぱりだめかあ・・・」菜月はそう言うと、寂しげな顔で空を見上げた。

「ごめん・・・」







寮へ帰ると、ジュリはみんなと一緒に晩御飯を食べながら、早速その事を相談してみた。

すると寮母さんは「う~ん」と言って、珍しく腕を組んで考え込んだ。

「どうすればいいんだろう?」ジュリがそう言うと、レナは少し感情を乱しながら話し出した。

「そんなのあんまりだよ。だって菜月さんは本来なら天国に召される身だよ。天使法が理由で浮遊霊になってるなんて、そんなのあんまりだよ」

正義感の強いレナは、どうしてもそれが許せなかった。

すると寮母さんは淡々と話し始めた。

「人間界の医療技術は年々上がっている。でも、天使法というのは100年も昔に作られた法律で、脳死というのは想定に無い。大体昔は脳死患者っていなかったんだよ。脳死イコール死だったんだ。だから天使法は今の時代にはマッチしない」

「おばさん、どうすればいいの?どうすれば菜月さんを天使界へ導く事が出来るの?」ジュリがそう尋ねると、寮母さんは何も言わずに目を閉じた。

「ねえ、おばさん。教えて」

すると寮母さんは、手に持っていた箸を置き、真剣な眼差しで話し出した。

「法改正しかないね・・・」

「法改正?」

「ああ、でもこれは簡単な事じゃないよ。天使法は60年も改正されていない、ガチガチの法律。これを改正するというのは、並大抵の事じゃない」

「じゃあどうすれば法改正ができるの?」

「天使議会で3分の2以上の賛成票が必要になる」

「それじゃ議会に訴えればいいじゃない?」

「天使界はあんたのお母さん、つまり総裁の独裁だよ。他の者は総裁を恐れて、誰も自分から新しい事をしようとは思わない。ただでさえ天使総裁は、伝統を重んじるタイプだから、いくら議会に訴えても法改正は通らないだろ」