フォーエバー・フレンズ -128ページ目

9、伝えたかった言葉ー4

次の日ジュリは、バイト先へと向かった。

ジュリは心に決めていた。今日こそ菜月の事を恭介に聞こうと。


「店長、話があるの」

「な、なんだよ急に?」

「いつも夕方何処に行っているの?」

「どうでもいいだろ」恭介はそう言うと、ワッフルを黙々と焼いた。

「菜月さんの病院に行ってるんでしょ?」ジュリがそう言うと、恭介はワッフルを焼く手をピタッと止めた。

「菜月さんに会いに行ってるんでしょ?」

「ジュリ・・・何故菜月の事を・・・」恭介は呆然とした表情でそう言った。






閉店後、ジュリがお店の片付けをしていると、恭介はジュリの側へとやってきて、一枚の写真を手渡した・

それは、カップルで腕を組みながらのツーショット写真。大学時代の恭介と菜月の姿であった。

「店長・・・それに菜月さん・・・」

「菜月はオレの妻だよ・・・」恭介は寂しげにそう言った。

「・・・」

「3年前に、品川駅の通り魔事件に巻き込まれて、脳死状態になってしまったんだ」

ジュリは手渡されたその写真をまじまじと見つめた。

「・・・店長・・・店長は菜月さんと仲が良かったの?」

すると恭介はゆっくりと首を横に振り、寂しそうな顔をしながら笑った。

「いや、ひどいもんだった。喧嘩ばかりしてたよ。このワッフルと一緒で、デコボコ同士の夫婦だった」そう言うと恭介は、一かけらのワッフルを手に取り、菜月との思い出を話し始めた。

「菜月とは大学時代から付き合っていた。ダンスサークルなんてやってさ・・・とにかく仲良くて、そして結婚した。でもその後は二人とも別々の道へと進んだ。オレは商社勤め。菜月は大好きなワッフルのお店を開きたいと言って、この店を始めた」

「じゃあ、前のオーナーって?」

「菜月だよ。この店は菜月がやっていた店だ。でも店は赤字続きで、実際はオレの給料で生活をしていたんだよ。そんな中でオレはストレスばかり貯めていったよ」

「ど、どうして?夫婦でしょ?」

「当時のオレの仕事は、とにかく利益の虫みたいな仕事でさ。会社を買収しては傘下に治めてそれからリストラして・・・軌道に乗ればまた株式市場で売るみたいな。とにかく儲けるためなら、情け無用だった。オレのやった事でどれだけの家庭が崩壊したんだろ。そんなオレから見れば、赤字経営を続ける菜月が、物凄くだらしなく見えたんだ」

ジュリはそんな恭介の話を黙って聞き続けた。

「ある日、菜月に言われたんだ。オレの仕事は人を不幸にするって・・・」

「そんな・・・」

「さすがにキレてしまって家を飛び出した。俺は菜月の為にここまで頑張ってきたのに。それから別居生活・・・オレもまだ若かったんだ。ささいな事が許せずに、ささいな事で家を飛び出してさ・・・」

「・・・」

「あの事件のあった日、菜月は麻布のオレのアパートに来るはずだったんだ。それで菜月は品川駅にいたんだよ」

「そうなの?」

すると恭介は机の下から一枚の手紙を取り出し、ジュリに見せた。

「これは?」

「あの事件の日、菜月は鞄の中にこの手紙を入れていたんだ」






愛する恭介へ




恭介、最近少しずつ暖かくなってきたよね?

元気に仕事頑張ってる?

でもあんまり無理ばかりしないでね。

恭介はただでさえ無茶する人だから・・・。

実は今日、この手紙を書いたのには理由があります。

この間私、恭介にヒドイ事を言ってしまったと思って反省してる。

恭介が人を不幸にさせるなんて言葉あんまりだよね。

恭介は以前言ってたよね。

私の為に、オレは頑張るって。

そんな恭介の気持ちも知らずに本当にごめんなさい。

そして今でも愛しています。

もし恭介に、まだ少しでも私への気持ちがあるのなら、戻ってきてほしい。

そして大学時代のように、もう一度仲良くなってやり直したい。

追伸

ワッフルをポストに入れときました。

学生時代、恭介によく作ってあげた、メープルワッフルです。

疲れた時は、甘いものが一番だよ。                      

菜月より






「ワッフルは、オレの部屋のポストに入れられる事はなかった・・・」恭介はそう言うと、思わず下を向いてしまった。そして寂しげな声で語り続ける。

「オレは菜月の事が本当は好きだったんだ。なのに一時の怒りだけで、家を飛び出してしまった」

「店長・・・」

「菜月は誰からも愛される人間だった。その証拠に菜月が脳死状態になると、沢山の人がやってきて涙をながした。それは今でも変わらない。オレは商社勤めでまわりにはいつも沢山の仲間がいたけど、それは業績と出世に群がる人間の集団なだけで、もしオレが死んだとしても、誰も墓参りすらこないよ。オレは決して愛される人間じゃなかった」

「・・・」

「菜月の言うとおりだったんだよ。オレは誰も幸せにする事が出来ない、悲しい人間だったんだよ」