フォーエバー・フレンズ -126ページ目

10、熱い想いー1

ジュリは寮のお風呂に入っていた。昭和の香りのするお風呂場。天井からは露がしたた

り落ちる。そして、温まった体で湯船から出ると、恐る恐る自分の翼をゆっくりと開いてみた。するとジュリの背中から、美しくそして大きな白い翼がサーッと開いていった。

「大丈夫。もう痛くない。これなら飛べる」

そう言うと、ジュリは何もかも踏ん切りがついたかのような顔をして、湯気の沸き立つお風呂の天井を見上げた。


レナはレナで、あれから必死に資料作りをしていた。品川区、大田区の街で、浮遊霊の数をカウントし、人口一万人に対して浮遊霊の魂が何体あるのかという計算をしていた。すると驚くべき数字が飛び出したのだった。

なんとこの日本国内だけでも、およそ3万体もの浮遊霊がいる計算になったのだ。

菜月のように脳死状態であの世に行けないもの、池上のように犯罪を犯しても捕まらずに逃げ切り、死後地獄行きを恐れてあの世行きを拒否するもの。それぞれがいろいろな事情を抱えていた。

しかし、天使界はそれをずっと放置していたのだ。この責任は重いものである。


「ジュリ、これはひどいよ。天使は仕事をしてないんだよ」レナはそう言いながら、パソコンをカタカタと操作し、パワーポイントの資料を作っていた。

「そうだね・・・」

ジュリはそう言うと、少し呆れたような顔をした。


一人一人が仕方ないとか、面倒くさい、もしくは自らの保身ばかりを考えていき、手を抜いた結果がこれだった。


すると寮母さんが、部屋の中へと入ってきた。

「あんたたち、天使議会は3月4日だよ。それまでにちゃんと資料を作るんだよ」

「うん、わかった」


3月4日の天使議会。


それは天界司祭もが出席し、次の天使総裁を決める重要な会議であった。

なんと寮母さんは、天使界の上である人、天界の司祭の前でこの事実を公表する作戦に打って出た。天使界の中でいくら騒いだって、天使総裁の力で全て決められてしまう。はっきり言って意味が無い。

今の3人に頼りなのは、天使総裁のさらに上の力であった。




しかしそんな3人の動向を、天使界は既に見抜いていた。ジュリの母、つまり天使界総裁の部屋に一枚の書類が届いた。それは諜報省からの秘密文書であった。


高度3万メートルに位置する天使界の太陽はとても眩しい。

窓ガラスから眩しい光の立ち込める総裁室で、ジュリの母は一人その書類を読み出した。


『天使界から人間界へ留学中のレナとジュリは、2月26日から今日まで人間界の浮遊霊の数の調査をしているもよう。二人は3月4日の天使議会にて、その調査内容を公の場で発表するつもりである。目的は天使総裁の失脚であると思われる』


「あの子・・・こんな事をしたらどうなると思っているの・・・」

ジュリの母はそう言うと、すぐさま卓上に置かれたベルを鳴らして秘書を呼んだ。

「はい、お呼びでしょうか?」秘書が総裁室の中へ入ってくると、ジュリの母は「ジュリとレナに、強制送還命令を出して。違法調査の疑い。従わなければ即逮捕!」と言って感情を取り乱した。

「はい!」


ついにジュリの母は、総裁権を発動した。

こんな事が、天界に知れ渡ってしまえば、天使界の信頼問題を揺るがしかねない事である。




広尾にある心聖女学院の正門からは、今日も気品のある女の子達が次々と下校していく。

そんな中、レナとジュリはその人混みに紛れながら、校門から出ると、閑静な広尾の高級住宅地の中を、肩を並べて歩いていた。

「ジュリ、いよいよ明日だね」

「そうだね。頑張ろうよ」


二人でそんな事をいいながら歩いていると、突如白い服を着た男達が二人を取り囲んだ。

「えっ?」ジュリは驚き目を見開いた。

すると一人の男が一歩前へと出てきた。

「ジュリ、レナ、お前達は天使界へ強制送還だ!命令に従わなければ逮捕する」

その男が胸に付けているバッチ。

それは『天使界特別警察』つまり天使界のシークレットサービスの証明であった。

「私達が何したって言うの!」レナは感情を荒げながら、その男達に食ってかかった。すると特別警察の男は「違法調査だ!」と言ってのけた。

「違法調査???」

「無断で人間界の調査を行った。立派な犯罪だ!」

「そんな・・・」

「したがわなければ逮捕するぞ!」


するとその瞬間、レナはか細い体ながらも、全力でその男達への体当たりを敢行した。

「ジュリ!逃げて!」

「レナ!」

「早く!!!」レナがそう叫ぶと、ジュリは咄嗟に大きく翼を広げて、大空へと舞い上がった。

「待て!」男達も翼を広げて、大空へと舞い上がった。

レナは警察に取り押さえられながらも「ジュリ!お願いだよ!」と叫んだ。


ジュリはその後、必死に東京上空を逃げ回っていた。

そして特別警察官達も「待て!貴様!」と叫びながら、ジュリを追い回し続けた。

しかし、もともと空を飛ぶのが得意なジュリは、アクロバット飛行を何度も何度も繰り返し、やっとの思いでその警察官達から逃げ切った。