11、天使からのプレゼントー1
3月8日、菜月の容態が急激に悪化した。
突然お店の電話が鳴りだし、ジュリはあわててその電話を取った。
「はい、天使のワッフルです」
「こちら品川救急病院です。ご主人様はいらっしゃいますか?」
「あ、はい。ちょ、ちょっと待ってください」ジュリはそう言うと「店長!病院だよ!」と言って、恭介を呼んだ。
すると厨房の奥から恭介がやってきて、その電話をとった。
「はい代わりました。喜多嶋です。はい、はい・・・そうですか・・・わかりました・・・」
恭介の表情は一気に曇った。
そして電話を切ると、恭介は黙って天井を見上げた。
「店長どうしたの?」
ジュリがそう問いかけても、恭介はずっと黙っていた。
「ねえ、聞いてるじゃん」
「菜月が死んだ・・・」
「えっ?」
「菜月がさっき死んだらしい」
「うそ・・・」
二日後、近くの葬儀場で、菜月のお通夜が開かれた。
ジュリは受付窓口係をしていたが、通夜に訪れる人達のあまりにもの多さに驚いた。
菜月に助けられた、小学生達。
天使のワッフルの常連客。
大学、高校の同級生。
それは生前誰からも愛された証拠である。
人間の価値と言うものは、死んでから初めてわかるものである。
そんな菜月は、大勢の人達に見送られながらこの世を去って行った。
お通夜が終わると、ジュリは受付の後片付けをしていた。
そして少し伸びをしながら「ああ、疲れた」と言った時、背後から「ジュリさんごめんね」と声が聞えてきた。
振り返ると、そこには菜月が立っていた。
「菜月さん・・・」
「ごめんね。大変な事させて」
「いいの、いいの。まかせといてよ。それと、一週間ぐらいしたら、エミちゃんが迎えにくるから、葬式が終わったら、行きたいとこにでも行ってきたら」
ジュリがそう言うと、菜月は首を横に振った。
「ううん。何処にも行かない。恭介の側にいたいの」
「菜月さん・・・」
「彼には私の事が見えないと思うけど、でも恭介の側にずっといたいの。私のたった一人の愛する人・・・」菜月はそう言うと、寂しげに下を向いた。
ジュリが葬儀場の中に入ると、恭介は一人椅子に座り、正面の菜月の葬儀写真をみつめながら、日本酒をコップ酒で飲んでいた。
「店長・・・」
「ジュリ、いろいろとありがとう」
「ううん。私、こんな事しかできないからさ」
恭介は少し酔いながら、菜月の写真を見つめた。
「オレさ、菜月を殺した犯人より、もっと憎い奴がいるんだよ」
「もっと憎い奴?」
「そう、オレは自分が一番憎い・・・」
「ど、どうして?」
「生前泣かしてばかりいて、今になって愛情もってどうするんだよ」
「・・・」
「誰がそんな事されて嬉しいんだよ。オレが菜月の立場なら絶対に言ってやる。お前調子いいんだよってさ・・・」恭介がそう言うと、ジュリはそんな荒れ気味の恭介に何も言えず、ただただ黙っていた。
すると菜月が、ジュリの隣にやってきた。
「恭介・・・」
そう言うと菜月の目から、涙がこぼれ落ちた。
翌日は晴天だった。
そしてその晴れ渡る青空のもと、菜月は大勢の人達に見守られながら、葬儀場を去っていった。
晴れ渡る青空。それはまるで菜月の美しい笑顔のようだった。
これで菜月は一週間後に、あの世へと導かれる。
天使法の改正が、ようやく天使界でも取り上げられるようになり、まるでそれが決まるのを待っていたかのようだった。