11、天使からのプレゼントー4
そして昼下がり、ジュリの母は天使の寮の前へとやってきた。
オンボロの天使寮。
その姿をみると、ジュリの母は難しい顔をした。
「ボロい・・・なにこれ・・・」
すると庭先で、寮母さんが芝刈りをしているのを見つけた。
「あれ?」ジュリの母がそう言うと、寮母さんもそれに気付いて、重い腰を上げた。
「みっちゃん?」寮母さんが不思議そうな顔でそう言うと、ジュリの母は「えっ?ひょっとしてタマエちゃん?」と言って、目を丸くさせた。
「久し振り!」そう言うと、二人は手を取り合って喜んだ。
「タマエちゃんなに?すんごく太ったんじゃない」
「そうそう。人間界の食べ物が美味しくてねえ。ついつい油断してこんな事に」寮母さんはそう言うと、少し照れくさそうにして笑った。
「えっ?でもタマエちゃん医者になったって聞いたよ」
「そう、人間界駐在のお医者さん。でもいつの間にか留学生の寮の管理もさせられてね。今は寮母兼お医者さん」
そして寮の居間で、ジュリの母はお菓子とコーヒーをご馳走になった。
「みっちゃん、人間界は久し振りじゃない?」
「15年ぶりだよ」
「そんなに来てないの?」
「全然。天界への出張が多くて、人間界は全然来てなかったの」
「そんな事じゃダメだね。事件は現場で起きてるんだよ」
「あはは、タマエちゃん昔からそれ口癖だったね」
「言っとくけど向こうがパクリだからね」
「はいはい。ところでウチのバカ娘は元気にやってる?どうしようもない子でしょ?」
「あはは。昔のみっちゃんにそっくりだよ」
「私に?」
「そう、浮遊霊の立場に立って、いつも一生懸命。私よく覚えてるよ。あんたよく拒否する浮遊霊説得してたよ」
15年前。
大雨の降る夜の東京。
そこにはまだ若かりし頃のジュリの母の姿があった。
ジュリの母は、病気で亡くなった一人の女性の浮遊霊の、天使界行きの説得にあたっていた。
「お願い。小さな子供がいるの。子供が大きくなるまで成長を見守りたいの」
「あなたがここにいても何もできないのよ」
「ううん。それでもいいの。お願い、私をあの世に連れていかないで」
するとジュリの母は、その浮遊霊に優しく微笑んだ。
「あのね、子供はあなたが思うよりも、ずっとしっかりしているものなのよ」
「でも・・・」
「私も子供がいるけど、子供は親が思うよりもずっとたくましいの」
「えっ?あなたにも子供が?」
「ええ、3歳の子供がいるけど、主人が亡くなってしまってからは全然構ってあげてないの。でも、それでも毎日成長してくれる。子供は親が思うより、ずっとしっかりしているものなの」
「そうなの・・・あなたも大変なのね・・・大変なのは私だけじゃないのね・・・」
「そう、みんな一生懸命に生きてるの。大人も子供も、それに天使も一生懸命。だからあなたも生まれ変わって、新しい人生を懸命に生きて」
「・・・」
「私について来れる?大丈夫?」
「わかりました・・・」浮遊霊の女性はそう言うと、ワンワンと泣いた。
そしてジュリの母は、その泣く女性をそっと抱きしめた。
ジュリの母にもそんな時代があった。
そう、あの時は無我夢中で現場を駆け回っていた。
寮母さんはその時の事を懐かしく思い、目を閉じていた。
「あの時の事を思い出すと、みっちゃんとジュリは、本当にそっくりだと思うよ」
そんな言葉を聞くと、ジュリの母を思わず苦笑いをしてしまった。
「ところであの子、今どうしてるの?」
「ああ、学校はもうお休みに入ってて、今はアルバイトだけしてるよ」
「アルバイト?あの子がアルバイトを?」
「そう。一生懸命働いて、それで渋谷でしょっちゅう買い物してるよ。今日は朝からネイルアートするとか言って出て行ったよ」
「本当にあの子は・・・」