11、天使からのプレゼントー5
「ヘヘヘ。しちゃったネイルアート」
ジュリは、バイト先のレジに立って、ネイルアートを施された爪をみながらニンマリしていた。
するとお店の入口のセンサーがピコピコと鳴りだした。
「いらっしゃいませ」ジュリは条件反射のように、ペコリと頭を下げた。
そして顔を上げると、なんとそこには母が立っていた。
「お、お母さん!」
ジュリの母は、お店の客席に座っていた。
するとジュリが「はい。これおごり」と言って、母のいるテーブルに、ワッフルとカフェモカを置いた。
「なにこれ?」
「ワッフル。私が作ったの」
「そう・・・」
母は、ジュリの作ったワッフルにフォークを入れると、そのひとかけらを口の中に入れた。
「おいしい・・・」
ジュリは何も言わずに、窓の外を見つめていた。すると母が、思い出したかのように話し出した。
「あんたそう言えば、子供の頃よく私に、ホットケーキ焼いてくれたよね」
「そうだっけ・・・」
「とても不味かったけど、美味しいって言ったら、あんたもの凄く喜ぶもんだから、いつも額に汗かきながら、美味しいって言ってた」ジュリの母はワッフルを食べながら、思わず「ふふふ」と笑ってしまった。
母は黙ってワッフルを食べ続けた。
そしてフォークを皿の上に置くと、ジュリの顔を見つめて話し始めた。
「ねえ、あんたこれからどうするの?」
「どうするって?」
「天使界に帰ってくるの?」
「・・・」
「人間界にいたいのならそれでもいいし、戻って天使になるならそれでもいいし。自分の生きる道は自分で決めなさい。あんたはもう子供じゃないと思っている」
「おかあさん・・・」
「私、総裁まで昇りつめて、天使としては最高の地位を得た。でも母親としてはダメな女だと思ってる。あんたが甘えたい時に、甘えさせてあげなかったし、あんたが寂しがっている時も側にいてあげなかった。だから私、あんたに憎まれて当然だと思ってる」
「・・・」
「でもね、女手一人で子供を育てるって本当に大変な事なの。それは、あんたが母親になった時にわかると思う」
ジュリはそんな母親の言葉を黙って聞いていた。
母はワッフルを食べ終えると「ごちそうさま」と言って手を合わせ、席を立った。
そして「それじゃ帰るね」と言って、ジュリに手を振った。
母がお店を出ようとした時、ジュリは「お母さん」と言って呼び止めた。
「なに?」
「お母さん、お願いがあるの」
それから一週間後、
ついに菜月が天に召される日がやってきた。
菜月はこの世界の最後の光景を、目に焼き付けるような気持ちで、平和島から見える、夜の東京湾の景色を見つめていた。
ジュリは、そうやって寂しげに東京湾を見つめる菜月の側に立っていた。
「寂しい?」
「うん。だって一杯思い出のあった場所だもん・・・」
「そっかあ・・・」
「でも大丈夫。行かないといけないんだから」
「ねえ、菜月さん」
「なに?」
「店長と菜月さんて、大学時代にダンスやってたんでしょ?」
「何で知ってるの?」
「店長が言ってた」
すると菜月は、少しだけ微笑んで夜空を見上げた。
「そう、社交ダンスの東京大会で入賞したの。あの時は本当に楽しかった」
「その時の振り付けって覚えてる?」
「忘れない・・・何度も何度も練習したから・・・。恭介、やりだしたらトコトンやる人だったから、毎日毎日何時間も練習して。大変だったけど、それでもとても楽しかった。目の前に無我夢中になれるものがあったから・・・」
菜月はそう言ってジュリをみると、いつのまにかジュリはその場にいなくなっていた。
「ジュリさん・・・」そう言ってあたりを見回すと、少し離れたところに恭介が立っている事に気がついた。
「恭介・・・」
菜月はそう言って、恭介の姿を見つめた。
すると恭介は、なんと菜月の存在に気がついた。
死んだ筈の菜月。しかし今、その菜月は恭介の目の前に姿を現した。
奇跡だった・・・
「な・・・菜月・・・」
「えっ?」
「菜月なのか?菜月だよな?」
「えっ?恭介、私が見えるの?嘘でしょ?」
「見える・・・どうしてだ?これは一体・・・」
恭介はそう言いながら目の前に起こった奇跡に、大きく目を見開いた。すると菜月は「恭介・・・私が見えるのね・・・」と言って、思わず目に涙を浮かべた。
そして物陰に隠れて、ジュリとエミはその二人の様子を見つめていた。
「ごめんねエミちゃん。早く帰りたかったでしょ?」
「ううん、大丈夫だよ。どうせ今日ヒマだったから。総裁が今回は特例だって言ってた。こんな事ってあるんだね」