11、天使からのプレゼントー6
東京湾から吹き注ぐ風は、春のように暖かかった。そして菜月と恭介の二人は、しばらく肩並べながら、海沿いを歩いていた。
「どうして菜月の事が見えるんだろ?」
「わからない。でも・・・ひょっとして、これはプレゼントなのかな?」
「プレゼント?」
「そう、天使からのプレゼント」
菜月はそう言って、美しい笑顔で夜の東京湾を見つめた。
そしてしばらく二人で歩いていると、恭介はふと昔の事を話し始めた。
「菜月、お前に謝りたい事があるんだ」
「どうして?」
「オレ、お前が生きていた頃、かなり辛くあたってただろ?ごめん・・・」
「ううん。私も恭介の気持ちをわからずに、恭介は人を不幸にするなんて言ったりして・・・」
「いいよ。その通りだよ」
「でも・・・」
「あの時のオレは人間じゃなかった。利益の虫だった。菜月がいなくなって初めてわかったんだ。人間の価値は死んでからわかるって」
「死んでから?」
「うん。菜月が死んだ時、沢山の人がやってきて涙を流した。それは菜月が沢山の人から愛されていた証拠なんだよ。そして菜月が、死んでも沢山の人からあの時菜月と出会えてよかったと思われ続ける」
菜月はそんな恭介の言葉を黙って聞いていた。
「もし商社にいた時のオレなら、きっと誰も泣いたりしないだろう。あの時のオレは死ねば終わりだったんだ。それだけ人を不幸にしてきたんだ・・・」恭介はそう言うと、寂しげな表情を浮かべた。
そして「人間の生きてきた価値というものは、死に方で決まるんだ」と言って、夜空を見上げた。
すると菜月が「ねえ、恭介」と言って話し出した。
「なんだよ」
「大学時代に出場した社交ダンスコンクールの事覚えてる?」
「ああ、しっかりと覚えているよ。忘れないよ」
「じゃあ、あの時の振り付け覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。あれだけ練習したんだ。心が忘れても体が忘れない」
すると菜月は、恭介の手を取り「ねえ、踊ってみない?」と言って、微笑んだ。
「ああ」恭介はそう言うと、少年のような笑顔で笑った。
そして二人は、夜の東京湾の海横でペアダンスを始めた。
そう、あの楽しかった大学時代を思い出すかのように、手を取り合い、そして時折クルクルと回りながら。
そして・・・。
二人はやがて宙に舞い、そのまま夜の大東京の上空へと浮かび上がった。
美しく光りを放つ大東京の街並み。その美しい光景を目の当たりにすると、二人は見つめ合う。
大東京の夜空でのダンス・・・。
それはジュリの母からのプレゼントであった。
宙に舞った二人は、その東京の美しい夜景を下に見て、夜空をクルクルと回りながらダンスを続けた。
二人の歩んだ青春時代。
あの時は何もしがらみもなく、ただひたすら共に何かに向かって進んでいた。
そして今夜、天使から贈られたプレゼントで、二人はあの頃の事を思い出すかのように、夜空の中でダンスをしながら見つめあった。
「菜月、元気でな」
「うん。恭介も元気で」
お互い笑顔でそういいながら、二人は最後のダンスをした。
そしてその日の夜更け過ぎ、菜月は天へと召された・・・。