フォーエバー・フレンズ -104ページ目

2、詩織(2)

大学に行くと退屈な授業が待っていた。何故大学の授業で、柔道などあるのだろうか?これも健全なる日本男児の育成に必要なのであろうか?

もともと体の細い直哉にとって、柔道は全くの専門外。しかも今日のお相手は、ラグビー部の小野寺武である。

武はラガーマンと言えど、決して大柄な男ではなく、背丈は168cmと直哉より10cmも低い。

彼はスクラムハーフというポジションの担当であり、いわゆるスクラムから出たボールを、後方へパスする役割を補っていた。

しかしそんな武もラガーマンには変りはなく、日頃より100kg以上の巨漢にタックルを受ける訳である。なので強靭な下半身を持ち合わせていた。


武は、直哉を軽々と投げ飛ばす。

「いってえ!ちょっとは加減しろよ。足に後遺症あんだからさ」

「後遺症のせいにすんな。俺だって後遺症持ちだ。さあもういっちょ」


武は1回生の頃からの友人である。神経質な直哉と違い、あまり小さな事を気にしない武は、なんとなく気のあう仲間であった。

しかし今、そんな武にも悩みというものが存在した。彼は、昨年の大学ラグビー選手権で、あばら骨を3本も複雑骨折してしまう大怪我をしてしまったのだ。

医者からは再起不能と診断されたが、ラグビーの大好きな彼は、練習こそさせてもらえないものの、マネージャーとして毎日頑張っていた。


アキレス腱を切った直哉に、あばら骨の無い武。二人の体はもうボロボロだった。そしてボロボロの二人は今日も一緒に帰路へとつく。


品川駅前は巨大ビルの立ち並ぶ大都会。そんな大都会の町を二人は肩を並べて歩いていた。

「なんで今日はジャージなんだよ」

いつもと違う直哉のファッションを見て、武は少し不思議そうな顔をした。すると直哉は「ちょっとだけ走ってるんだよ」。

「なんだよ。走れんじゃん」

「走れねえよ。ちょっと走って、ちょっと歩くの繰り返しだよ」

「そうか。でもよ。俺思うんだけどさ、なんで陸上選手ってそんなにヤワなんだろう。ラグビーやってる人間で、アキレス腱切った事ある奴なんて山ほどいるけど、みんなバリバリの現役だ。なのにどうしてだろう。陸上やってる奴って、なんかサラブレッドみたいだ」

「う~ん・・・」

「多分筋力不足だな」

「筋力不足?アキレス腱だぞ?どうやって鍛えるんだよ」

「違うよ。アキレス腱への負担を掛けない為に、違う所を鍛えるんだよ」

「違うところ?」

「ああ、例えばふくらはぎとか、太ももとかさ。ラグビー選手はあちらこちらの筋力で体が守られている。でも陸上やっている奴は鎧となる筋肉が無いんだよ。まあ持続力勝負だから仕方ないんだけどね」

武のその言葉を聞き、直哉はハッと思った。そうだった。確かに長距離選手は走るだけの練習が多く、また、持続力勝負の為か、余分な筋力は一切つけない。しかしどうだろう。別にオリンピックに出る訳ではない。出たいのは箱根駅伝だ。それならばラガーマンと同じように足腰に筋力をつけて鎧とすればひょっとして行けるのでは。


そう思うと直哉の決断は早かった。

「武、ラグビーの練習教えてくれ。今すぐ教えてくれ」

「何だよ急に」

「いいから教えてくれ」


そして直哉は、武とともに再び学校へと戻っていった。


ラグビー部のウェイトトレーニングルームで、直哉はまず両足の筋トレを開始し始めた。全国区のラグビー部のトレーニングルームである。鉛の重さはハンパじゃなかった。

「くう・・・」

蹴り上げようにも、か細い直哉の足では思うように上がらない。

「無理だよ無理無理!」

そう言うと武は、トレーニング機材の重さを軽めに調整し始めた。そして「これで・・・そうだなあ・・・直哉、千回出来るか?」と聞いてきた。

「やってみる」


こうして直哉の筋力トレーニングが始まった。たしかに長距離ランナーだった直哉は非力ではある。しかし、恐ろしいほどの持続力というものがあったのだ。

そしてなんと、いきなり千回もの足上げ筋トレをやってのけた。

「直哉すげえじゃん!」

直哉の潜在能力を目の当たりにした武は、思わず驚いてしまった。


久々の運動で、直哉の両足は完全に棒と化してしまった。そして武の肩を借りながら、直哉は帰路へとついた。

二人が品川駅にたどりつくと、山手線は帰宅ラッシュの時間にかちあってしまった。そして満員の車内ですし詰めになりながらも、武は直哉を絶賛し続けた。

「やっぱすげえな。持続力だけはラガーマン以上だ。こんな奴そうはいないよ」

「そうか?」

「ああ、いきなりやって千回出来る奴なんて、そうはいないよ」

「へへへ。これでも国体優勝したんだからさ」

「一体何の為にこんな事するんだよ」

直哉はしばらく考え込んだ。そして「もう一度走れるようになりたいんだ」と言った。

「マジかよ」

「走れない俺は植物なんだよ」

「何のために走るんだよ」

「わからない。とにかく走る」

「変な奴・・・」


直哉はこの時、何か手ごたえのような物を感じてとっていた。たしかに足は筋肉痛でガタガタだ。しかし、その膨張した筋肉が、まるでアキレス腱の鎧となっているように感じとる事が出来た。

「これは行ける」直哉は咄嗟にそう感じたのだ。


次の日も、そして次の日も直哉はトレーニングを続けた。

夜明けと同時に起きると、ランニングとウォーキングを交互に15km。キャンパスではラグビー部の施設を借りて、2千回の筋力トレーニング。バイト先では爪先立ちで、焼き鳥を焼いた。

そんな厳しい練習をしていると、なんと眠っていた左足が、少しずつ動くようになってきたのである。

確かにランナーとしてはまだまだ不十分かもしれないが、走れる距離は日を追うごとに長くなっていった。