F9の雑記帳 -94ページ目

「ウィーン近郊」





 黒川創「ウィーン近郊」(『新潮』2020年10月号所収)を読み終えた。

 兄西山優介がウィーン市内の自宅で自殺したためウィーンにやって来た主人公西山奈緒と息子の洋、彼女達のウィーン滞在をサポートする在オーストリア領事の久保寺光の様子や感情の描写をを中心に小説が進んでいくが、途中これで小説が終わるのかと思ったが終わらず、久保寺光の視点で小説が少し続いたのが意外だった。続ける事で感傷の程度が深くなるとは…。もっとも、主人公西山奈緒や洋については勿論、兄西山優介に関しても心情や思いを細かく書いているからこそ、余計にそうせざるを得なかったのかもしれないが。

 そして、上記の事とは別に、死後の対応方法、外国人に対する事情、(小説上の時間上の)政治状況等々、ウィーンにおける幾つかの事柄を知る事が出来て嬉しかった。ああ、僕は本当に単純だなあ。

「蛍日和」






 小谷野敦「蛍日和」(『文學界』2020年10月号所収)を読み終えた。

 ここ最近、この作者の『文學界』に載った小説とは異なり久し振りの私小説だったが、読み終えて(作者とほぼ同一と見なして良いだろう)語り手は蛍と言う女性を妻として迎え、凄く満たされているのだろうな、羨ましいなと感じた。書かれた内容から推測するに、蛍は少し変わった表現をしたりする人の様だが、そんな部分を嫌う感じは一切ないし、その様な部分も含めて彼女が好きなんだなと読んでいてはっきり分かるのだ。(年の差21歳だからこの様な表現になっても仕方ないのかもしれないが)「私は、あと二十年くらいはこの人と生きていきたいなと考えていた。」(117頁)ああ、良い表現をするなあ。最後の「よい子!フレデリック(←大腸ポリープ)はよい子!」(117頁)も素敵だし…。あと、個人的には二人に関する事以外の内容(例えば蛍の家族についての記述や「シン・ゴジラ」に対する評価等)も面白いので読んで損はないと思った。

 しかし、思うのだが、どうしてこの小説に関しては表紙に何の情報もないのだろう。いとうせいこうや山下澄人が全面に出ていないと売れないと言う事なのだろうか。まあ、そうかもしれないが、かなり寂しいな…。

『もっとヘンな論文』



 サンキュータツオ『もっとヘンな論文』(角川文庫)を読み終えた。

 ここ最近自分の仕事の関係で考える所があり、夜等に読書する気分にまるでならなかったのだが、先日尾鷲市内の書店で見つけた際「面白そう」と思ってしまい(それなりに購入した本は沢山あり、早く読まないといけないと分かっている筈なのについ)購入してしまった。ああ、誘惑に弱いなあ。部屋の片付けもあるのに。それより、『ヘンな論文』も読んでいないのに読むって、失礼じゃないのか?

 …などと少し考えたものの、個人的に目次を読んだ時点であまり興味がない物は無かったとは言え、いざ読み始めたらまあ面白かった。昨夜からなので時間は割にかかってしまったが、著者の語り口に乗せられてしまったのだろうか。最後の十本目の論文を紹介する興奮たるや…。個人的には最後の(その1とその2があり更に番外編がある)「十本目 『坊っちゃん』と瀬戸内航路」が(著者の熱量が伝染したのか)読んでいて一番興奮したが、他にも(大学の専攻で少し考古学をやったので)「三本目 徹底調査! 縄文時代の栗サイズ」と(そんな事は考えもしなかったし結論にも驚いた)「四本目 かぐや姫のおじいさんは何歳か」(←これ、大学の卒業論文なんだよな…。)に興奮した。こんな風に思うんだったら、早いうちに『ヘンな論文』も読んだ方が良いな、きっと。