F9の雑記帳 -91ページ目

『発掘狂騒史 「岩宿」から「神の手」まで』



 昨日、上原善広『発掘狂騒史 「岩宿」から「神の手」まで』(新潮文庫)を読み終えた。

 以前から(時代は違うが)考古学に興味があり、藤村新一についても旧石器捏造事件で名前は知っていたので、単行本(『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』)が出た時に一度読もうと思っていた。だが、無為に時を過ごしてしまい、ある時文庫本が出たと聞いたので書店で買ったものの、何だか読むのが惜しくて今まで積ん読状態にしてしまっていた。

 そして、「これではいけない」と一念発起して先週の土曜日から読み出したのだが、当然の様に面白かった。勿論藤村新一も出てくるし、(旧石器時代と言えばお馴染みの)相澤忠洋等も登場するのだが、個人的には帯にある“考古学群像劇”と言うより、芹沢長介の考古学における伝記だなと思った。芹沢長介も名前は知っていたが、ここまでの人だとは思わなかった。“憑かれた”と評しても決して間違いではない様に思うが、しかし、「旧石器の神様」か…。

「追いつかれた者たち」




 昨日、(約5日程かけて)濱道拓「追いつかれた者たち」(『新潮』2020年11月号所収)を読み終えた。

 「わからないままで」と同じく、第52回新潮新人賞受賞作。序で言及される“失火事件”に向かって進んでいく二組の男性の様子を中心に描いているのだが、途中から読むのがしんどくなってしまい、何度も読むのを止めたくなってしまった。暴力の描写が読んでいて嫌になったからか、廃屋やその内部での描写もすんなり受け入れられなかったからなのか、理由はよく分からないのだが…。恐らくそのせいだろう、読み終えた瞬間少し白けてしまった。ひょっとすると、この小説は「いちばん夢中になって」(鴻巣友季子選考委員の選評より)読まないといけなかったのだろうか。

「わからないままで」




 小池水音「わからないままで」(『新潮』2020年11月号所収)を読み終えた。

 第52回新潮新人賞受賞作。登場人物の「父親」「息子」「男」「姉」等と名前が明かされないうえ、アルコール依存で手が震える、女が途切れない、小児喘息等の諸設定が該当箇所以外で出てこず、更にホワイトウイングス、悪いイルカ等のエピソードが小説の本筋に絡んでこず物足りなかったが、最初から最後まで読みやすかった。この小説の最大の魅力はこれだったのかもしれない。

 しかし、5名の選考委員の選評の中で、田中慎弥の選評は読んでいて面白かった。特に「デビューなんかさせたくない、と強く思った。だからこそ、この作品を一番に推した。」(126頁)と言う箇所で声を出して笑ってしまいそうになった。