『時との戦い』

アレホ・カルペンティエール『時との戦い』(鼓直・寺尾隆吉訳、水声社)を読む。
以前に何冊か読んだ事のある「フィクションのエル・ドラード」のシリーズの中の一冊。
この本に収められている7篇の小説について、感想(めいたもの)を書いておく。
・「種への旅」(鼓直訳):死から誕生へと時間を遡ると言う、(個人的には)読んでいて予想外の展開だったが、面白かった。途中から出てくるマルシアルがいい。
・「夜の如くに」(鼓直訳):戦場に赴く前日の夜の物語。別に分からない等と言うのではないが、(最後の一行までもが)僕にはしっくりこなかった。
・「聖ヤコブの道」(鼓直訳):途中、小説上の時間が繋がったと感じた時かなり興奮してしまった。 そして、フアン(と言う名前の人物)が二人出てくる後半の展開も楽しかった。
・「闇夜の祈祷」(寺尾隆吉訳):題名通りの内容だったが、不穏な雰囲気の描写が詩的で、読んでいて若干怖かったものの、僕の中で音楽が鳴り出す感じがして面白かった。
・「逃亡者たち」(寺尾隆吉訳):ある犬に関する物語。逃亡奴隷(シマノン)について最初は逃げるものの、(様々あった後に)最後は野犬となると言うのはある種痛快だった。
・「選ばれた人びと」(鼓直訳):個人的には凄く面白かった。確かに、この小説における神(と言っても良い存在)から使命を受けた“選ばれた”人は一人とは限らないし…。
・「庇護権」(寺尾隆吉訳):大統領府内閣秘書官の地位にあった男が、クーデター勃発により、某ラテンアメリカ国の大使館に庇護を求め、様々に活躍すると言う物語に関して、やや微妙な気持ちになった。時間感覚が曖昧になり、徐々に状況が変化するとは言え…。
しかし、収められたどの小説も短かったのに、読み終えるのに時間が掛かってしまった。もっと集中しないといけないな…。
「わがままロマンサー」

鴻池留衣「わがままロマンサー」(『文學界』2020年12月号所収)を読み終えた。
以前、著者の雑誌に掲載された小説(「ナイス・エイジ」、「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」)が面白かったので期待して読み始めた。
だが、冒頭の一行(「妻の機嫌を治すために、男と寝ることになった。」(10頁))で出鼻を挫かれ、途中で同性愛に関する表現や不倫の描写がが途中で出てきて、読んでいてかなりしんどかった。
もっとも、「その手の界隈では名の知れたBL作家」(11頁))である主人公の妻、主人公の妻に嘘をついて近づく(そして、後に彼女と肉体関係を持つ。)男等が主な登場人物だからかもしれないが。
それでも我慢して読み進めていくと、主人公の計略が見事に当たり、主人公が有名になっていく展開となり、僕の予想外ではあったが、僕には縁遠いなと感じた。
しかし、小説の作者として写真に撮られた人物が、絶対にその小説を書いていないといけないのか。そんな事はない筈なのに…。
ただ、主題とはまるで関係ないかもしれないが。
『ベンドシニスター』

一週間程掛かって、ウラジミール・ナボコフ『ベンドシニスター』(加藤光也訳、みすず書房)を読み終えた。
またしても読み終えるのに時間が掛かってしまったが、僕自身は物凄く面白かったとは言えない。言葉遊びも多かったが興奮しなかったし、主人公クルークの友人が次々に逮捕され、息子のダヴィッドも施設で死に、収容所に入れられたクルークは発狂して…、と言った展開の割には極端にあるいは劇的に書かれていないからだろうか。もっとも、桑名市立図書館のサイトで調べていたら偶然見つけ、読みだしたからそう感じるのかもしれないが。そして、読み終えて(この本に収められている)ナボコフの「序文」を読まない方が良かったような気がした。
