『人鳥(ペンギン)クインテット』

青本雪平『人鳥(ペンギン)クインテット』(徳間書店)を読みました。
図書館で表紙に惹かれて借りてきて、(今日は休暇を取り実家へ戻ったので帰宅後の)夕方から読み出したのですが、夕食を摂ったり入浴したりを挟みつつではあったもののほぼ一気読みしてしまいました。
物語の(ほぼ)冒頭、ある日主人公(鳴海柊也)の祖父(鳴海秋雄)がペンギンに変わってしまった(らしい)奇想に驚きましたが、その奇想に寄り掛かることなく、主人公の祖父が経営するアパートの部屋(二〇三号室)の住民で偶然一時期を主人公と多くの時間を共有することになる)糸川晴、同じアパートの別の部屋(一〇一号室)の住民で偶然知り合った)土田菜月、肝心な場面で登場する宗像拓人(←どうやら死んでいるような…。)、(祖父と同居していた)主人公の家を時々訪ねてくる民生委員のシバタ、糸川晴の不登校が終わるきっかけとなった出来事に関係する駄菓子屋の主人である通称“ブル”、(中盤に登場する)主人公がある事件の秘密を握っているらしい高木由紀乃及び彼女の祖母等の登場人物のエピソードを絡めて、主人公の抱える秘密に迫っていくのが(僕には意外で)読んでいて面白かったです。謎は謎のままにしてあるのも良かったのではないでしょうか。正直なところ、僕は続篇もありなのではないかと思ってしまいました。
更に、最初及び各章(「春」「夏」「秋」「冬」)の最後に(物語の展開の方向を示唆する)警察での主人公の取り調べの様子の描写が置かれている事で、物語への興味更に掻き立てられた様に想いました。
ただ、(本当の)冒頭の「退化じゃなくて進化なんだって──。/そう、彼女は言った」(5頁)と言う言葉の(この小説の中での)意味はなかなか捉えにくかったです。なくても良かったのではないのでしょうか。
『不思議のひと触れ』

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(大森望+白石朗訳、河出書房新社)を読みました。
収められている10篇の小説の感想(めいた物とすら言えないに違いない代物)を以下に書いておきます。
・「高額保険」(大森望訳):短い小説ですが、途中で「あっ」と声が出そうになりました。これが20歳の時に発表された最初の小説だなんて…。
・「もうひとりのシーリア」(大森望訳):読んでいる最中は想像が出来ず悩ましかったのですが、少し時間が経ったら悲しくなりました。他人について知りたがるのは時として人(←この小説の中では人ではないですが。)を死に追いやるのですね…。
・「影よ、影よ、影の国」(白石朗訳):読んでいて主人公ボビーに対するグウェン母さんの仕打ちが堪らなく嫌でしたが、終盤の一連の流れの中でグウェン母さんが可哀想になりました。“あの人”、ねえ…。
・「裏庭の神様」(大森望訳):言う事がすべて真実…、神様ラクナも主人公ケネス・マージョリーに酷な試練を与えたものですね。もしこの状況に僕が置かれたら、どうなってしまうのだろうと思うと…。
・「不思議のひと触れ」(大森望訳):人魚の恋人を持つ男女が登場する小説と言うのは(個人的には)想像の埒外でしたが、小説の題名がそのまま本の題名になっているだけあり(?)良かったです。終盤の人魚達の対応もなかなか粋でしたし…。
・「ぶわん・ばっ!」(大森望訳):ジャズ小説は殆ど読んだ事はないのですが、語り手である(赤毛の大男)レッドが「一流バンドでタイコを叩く」様になる物語かと思ったら、全く違う展開で驚きました。そう言う事ですか…。
・「タンディの物語」(大森望訳):明らかに僕がそうだと思っているSF小説でしたが、中盤までの展開から僕が考えていた終盤の展開がどんどん覆されてしまい驚きました。そして、この小説に出てくるブラウニー(=「共生生物」(187頁):地球外生命体)は何だか怖いなと思いました。
・「閉所愛好症」(大森望訳):後半のコンピューターおたくの主人公と彼の弟の立場が逆転していくのが面白かったです。
・「雷と薔薇」(白石朗訳):核戦争後のアメリカについての小説。一度敵国に報復しようとする主人公が、考えを変えていく展開が良かったです。スター・アンシムは大変な役回りをよく勤めあげたものだなあ…。
・「孤独の円盤」(白石朗訳):ある時頭の上に円盤が浮かんでいた事がきっかけとなり自殺しようとしていた女性と足に障害がある男性が出会うと言う展開で、読み終えて暖かい気持ちになりました。
…どうやら、僕のSF小説に対する苦手意識は多少改善されたようです(もっとも、自分の思い込みの要素が強いと思いますが)。自分の頭で考えるためにも(?)、今後少しずつSF小説を読んでいこうと思います。
『この本を盗む者は』

深緑野分『この本を盗む者は』(角川書店)を読み終えました。
「第一話 魔術的現実主義の旗に追われる」「第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる」「第三話 幻想と蒸気の靄に包まれる」「第四話 寂しい街に取り残される」「第五話 真実を知る羽目になる」の五話(←五章と書いてしまっていいのか?)構成。
作者の名前は以前から知っていたものの小説は読んだ事がなかったので、図書館で偶然見つけたこの機会に借りて読んだのですが、第一話と第二話を別々の日に読み、第三話から第五話まで一気に読んだせいでしょうか、第一話にあった熱気が第二話、第三話と進むにつれ徐々になくなって行く気がして、少し物足りない感じがしました。
もっとも、ここ最近本をまともに読んでおらず(YouTubeばかり観ていました、と言うか今もそんな感じです。)、ある場所から本が盗まれると、主人公が暮らす街の人々が小説の登場人物になったりする設定(←若干言葉が足りないかな…。)に面白がったりしたので、第一話をやや過大評価しているのかもしれないのですが…。
個人的には、第二話(ハードボイルド)、第三話(幻想小説)で登場人物が閉じ込められた小説の世界の中で動けたなら、面白さはもっと増した様に思うのですが、雑誌連載(『文芸カドカワ』)では難しいのでしょうかね…。