「焚火」

水原涼「焚火」(『すばる』2021年3月号所収)を読みました。
和田忠彦『タブッキをめぐる九つの断章』(共和国)の名前が冒頭近くで登場するので驚きましたが、興味津々で読み始めましたが、個人的には主人公の勤務先の図書館の同僚である滝沢との交流よりも、幾分描写の量が多めである二十歳年上で(自身は鳥取に住んでいるので)旭川に住む主人公とは会う機会の多くなかった従姉の“ちかちゃん”との思い出の方が読んでいて興味深く、途中主人公のかつての夢がサッカー選手でちかちゃんの夢が小説家だと主人公に分かったり、あるいはちかちゃんと話が合わない場面が出てきたり等の気持ちが様々に動く場面はありつつも、主人公が作家になる展開が待っていたからでしょうか、極端に気分が落ち込む事なく読み終える事が出来て安心しました。
しかし、結婚後一年で分かれた後再婚せず、不妊治療すると言うのは、ちかちゃんはどんな気分だったのでしょうか。まさか、最後に自動車に轢かれて死んでしまうなんて、想像もしていなかったでしょうが。
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今月、予定では『文學界』2021年3月号だけ購入する予定でしたが、Amazonで表紙を見たところ、水原涼も嫌いな作家ではない(ですし、寧ろ好きな作家の部類です)し、高瀬隼子の以前読んだ小説は嫌じゃなかったなと思い、尾鷲市の書店で『すばる』2021年3月号を購入してしまいました。またしても、欲に負けてしまいました…。
『すべて内なるものは』

エドヴィージ・ダンディカ『すべて内なるものは』(佐川愛子訳、作品社)を読みました。
収められている8篇の小説は、どれもハイチに関係した内容となっています。
以下、(物凄く単純で浅いですが)感想めいた物を書いておきます。
・「ドーサ 外されたひとり」:主人公の女性が元夫からお金を騙し取られた事だけで終わるかと思いきや、結婚について考えさせられる事になるとは思いませんでした…。
・「昔は」:両親の離婚のため父を知らない主人公の女性が病気の父親に会いに行く(最後は若干違いますが…。)展開もある意味寂しかったですが、個人的には主人公の母親のさっぱりしているのが印象的でした。
・「ポルトープランスの特別な結婚」:エイズに罹ってしまった女性を見つめる主人公の「私がなんとかしないといけない」と言う行為と、彼女の取る態度の違いがより寂しさを増している気がしました。しかし、(小説の後半で明らかになりますが)タイトルだけ見ると幸せそうなのに、本当は違った意味があるとは思わず、分かった瞬間少し吃驚しました。
・「贈り物」:主人公の女性の不倫相手の男性がハイチの地震の被災者で、妻と子を亡くし義足をつけていると言うのも読んでいて呼吸が少し浅くなりましたが、主人公の女性の事を(描写を含めて)考えると辛く悲しい気持ちになりました。最後の場面もキツイな…。
・「熱気球」:安定を求める主人公の女性と、女性団体でボランティアをしている女性…、考え方が違うのに彼女を分かろうとする主人公の行動や態度の描写が胸に響きました。
・「日は昇り、日は沈み」:認知症になってしまった主人公と彼女の娘達との別れが、主人公の心理等が中心の章と、彼女の娘の思考等が中心の章とで書かれていて、読みすすめるにつれ辛い気分になったのですが、最後の場面を読んだら寂しいものの少し安心しました。主人公が娘にもっと色々と伝えられていれば、小説の展開は変わったのでしょうか…。
・「七つの物語」:7歳の時“島”の首相だった父親を殺され、主人公と1月ブルックリンで過ごした友人から“島”に招待された時の出来事が描かれているのですが、読み終えた後真実を知る事の難しさについて考えさせられました。そして、主人公の友人と夫の立場を分かりやすく描いている最後の場面も良かったです。
・「審査なくして」:アメリカに不法入国した主人公の男性の不慮の事故に死に至る過程が書かれていて、その中で一緒に住んでいた女性と子供に会いたいと言う主人公の願いが叶えられなかった部分を読んで虚しく悲しい気分になりました。ああ…。
「エラー」

山下紘加「エラー」(『文藝』2021年春号所収)を読みました。
主人公がフードファイターの女性で、テレビの大食い番組に出場して有名になったと言う設定は意外でしたが、主人公の恋人が(彼ができる範囲で)健気だったり(本当に、色々としてあげるな…。)、主人公の友人のアイドルの女性が大食い番組のプロデューサーの演出に乗っかる様だったり、大食い番組の裏側を知る事になったり等、読んでいて本当に面白かったです。
そして、主人公が知りたかった(お腹の)“底”が、最後の最後、テレビの大食い番組の収録中に分かったと思ったら、結局は自分で分かろうとした時に分からなくなると言う展開はスリリングで、実に上手いタイトルをつけたなと感じました。

