F9の雑記帳 -76ページ目

『海がやってくる』



 エリザベス ラッシュ『海がやってくる 気候変動によってアメリカ沿岸部では何が起きているのか』(佐々木夏子訳、川辺書房新社)を読みました。
 まず、アメリカには地球温暖化による海面上昇による問題があると言う意識が希薄だったので、書かれている内容に驚きました。自然環境の急激な変化、それに伴い移住を選択する人々、“撤退”、元の湿地に戻すプロジェクト…。
 また、章と章の間に(個人に対する)聞き書きも興味深く読みました。全米洪水保険制度、知らなかったです…。
 あと、読んでいて、全体的に詩的で、専門書とは違った雰囲気が漂っているように感じました。「書物とは奇妙な獣だ。」(299頁)と言う文章に限らず、この本の内容に類する本には、まず出てこないだろう文句や文章は多かったです。だから(と言って良いか分かりませんが)、本書がシカゴ・トリビューンなどで2018年の年間ベストに選出されたのでしょうか。

「BV-47」



 樋口恭介「BV-47」(『文學界』2021年8月号所収)を読みました。
 主人公の四歳の娘が罹り、後に流行し、主人公の妻や主人公も罹ってしまう病気が肺に花が咲く病気(病名BV-47)、舞台が人口の森と都市が併存する平行世界、BV-47に関する情報で溢れかえるマスコミの報道、医療関係者に対する不信…、読んでいて驚く事が多かったですが、現在のコロナ禍の状況を反映させているのが分かりやすく、読んでいて何だか面白かったです。
 また、BV-47は「ヴィアン氏症候群といい、最初の発見者であるフランスの医師、ボリス・ポール・ヴィアンに由来するという」(213頁)設定、主人公の娘と妻の描写の違い(口数の多くない娘、病気に罹ってから自分が見た夢について盛んに語るようになった妻、…この状況では、描写の量に違いが出ても仕方ない所ではあるでしょうが。)や、BV-47に打ち克つ方法(まさか、自然に委ねるのだとは…。)に吃驚したりしましたが、個人的には主人公の思考や心理の描写が細かい上に、(主人公に聞こえている心の)声まで書いてあり印象に残りました。この様に書いてなければ、小説の面白さはかなり減っていたのではないかと思いました。

『王の没落』



 ヨハネス・V・イェンセン『王の没落』(長島要一訳、岩波文庫)を読み終えました。
 普段は地味なのに嫉妬心が強い主人公のミッケル・チョイアセンの描写が最初から最後まで強烈で(いくら個人的には因縁があるとは言え、殺人を犯さなくても…。)、読んでいる途中で(ブックカバーにある)「傑作歴史小説」の文句はやや買いかぶりすぎかなと思いました。以前本屋で見かけて気になっていましたし、過度に期待してしまったのがまずかったのかもしれませんが。
 とは言え、全体的な内容は勿論、文章のあちこちに幻想的なイメージが横たわっていて新鮮でしたし、訳者による「はじめに」での16世紀の北欧についての解説及び「主要登場人物」の紹介、訳者解説等は興味深く、やや暗い内容ではありますが、絶対読んで損はないと思います。
 しかし、これだけ書き散らしておいてなんですが、訳者あとがきにあるように「精読」(404頁)に努めてから、感想(めいたもの)を書くべきだったのかもしれませんね。もう少し、語り口を変えられたと思いますし…。