『だれも死なない日』

一昨日、ジョゼ・サラマーゴ『だれも死なない日』(雨沢泰訳、河出書房新社)を読み終えました。
まず、序盤のある年の元日から人が死ななくなる展開は(もし仮にそれが現実になったら恐怖でしかないでしょうが)、奇想天外なエピソード等あるとは言え、納得しながら読み進められました。もしかして、小説の中で描かれた社会の混乱は、ある程度予想できたからなのでしょうか。
ですが、中盤から人が死ななくなった原因が明かされ、(手紙が手元に届くと言う手間を加えて)死が復活した所までは“あり”だなと思ったのですが、その後の展開に驚きました。死(モルト)が女性となり、ある不可解な現象をきっかけにして、ある男性に会いに行き“孤独”を感じるなんて…。正直な所、序盤を読み進めていた調子を修正しなかったからでしょうが、(途中、いくら恋愛小説めいた文章があるとは言え)若干白けてしまいました。
ただ、僕には「訳者あとがき」にある(作者は)「じつは『死』の概念を整理したかったのではないか」(251頁)とまでは考えませんでした。つくづく単純に“読んだだけ”に過ぎないですね…。
『静謐――北杜夫自選短篇集』

先日、北杜夫『静謐――北杜夫自選短篇集』(中公文庫)を読み終えました。
北杜夫の名前は知っていても小説は殆ど読んだ事がなかったので、某書店でこの文庫本を見つけた日から数日後に購入して読んだのですが、収められた10篇の小説を読み終えて、(特に「岩尾根にて」や「谿間にて」を読んだ時に顕著だったのですが)僕には想像力が乏しいと言う事実を改めて突きつけられた気がしました。
とは言え、読んでいて興味深い小説や面白い小説がなかったのかと言われるとそうではなく、理由はともかくとして、個人的には作者の父である斎藤茂吉の死を中心にして描かれている「死」、失業中の男性の就職活動中の様子を中心に描かれている「黄色い船」が印象に残りました。
ああ、やはり僕は私小説や若干の奇譚めいた要素がある小説が好きなのかもしれません…。
「皆のあらばしり」

乗代雄介「皆のあらばしり」(『新潮』2021年10月号所収)を読みました。
まず、主要な登場人物の一人である主人公の高校生が出会った男の描写が面白かったです。目次にも書いてありますが、「奇数の木曜」に会い(ある旧家にあるだろう)書籍を手に入れようとして、あれこれ策を講じるのですが、凄く軽く感じられる関西弁で喋りつつ、時々資料に関して等深い話をしたり、なぞのこうどうをしたりすると言うギャップが何だか可笑しかったです。もしアニメやドラマになったら、どんな感じになるのでしょうか。まあ、終盤の展開はまるで予想していませんでしたが…。
次に、主人公の高校生の描写も“謎の男”の描写に負けず劣らず面白かったです。最初の男をまるで信用しない態度から徐々に態度を変えていく展開があった上で、最後男にささやかな復讐(←そんなに大した物ではないです。)を果たすと言うのは本当に予想していませんでしたので、良い意味で裏切られました。謎の男の見立て通り、「ダントツに優秀な同僚候補」(62頁)になるかどうかはさておくとして…。
そして、主要な登場人物二人の色付けがはっきりしているので、身構えられてしまうかもしれない内容の割に読みやすく、楽しかったです。(かなり個人的希望が含まれていますが)この小説、芥川龍之介賞候補になるんじゃないでしょうか…。
