『雨の島』

呉明益『雨の島』(及川茜訳、河出書房新社)を読み終えました。
この本には6篇の短篇小説と6点の絵画(うち5点は作家自身の筆になるもの)が収められていて、どれも幻想的で魅力的でしたが、読むのに時間を掛け過ぎたからでしょうか、僕にはすんなりと読める小説はありませんでした。
ああ、もう少し自分に植物や動物等の知識と想像力があれば…。
しかし、台北ビエンナーレ2018での台北市立美術館での展示期間中に読んだら、どんな感想を抱いたのでしょうか。
まあ、今回書いた事と同じ様になるに違いありませんが…。
そして、個人的には抑鬱状態の女性と恋人について書かれた「アイスシールドの夜」と、妻の小説に触発されて主人公の弁護士が行動を起こす「雲は高度二千メートルに」が(他の小説に比べて)繋がりが感じられ、印象に残りました。
※下の絵画は呉明益の手描きになる「サシバ、ベンガル虎および七人の少年少女」の冒頭に収められた「Butastur indicus」(サシバ)の一部(少しトリミングしました…。)です。
『私の人生の本』

アレクサンダル・ヘモン『〈東欧の想像力エクストラ1〉私の人生の本』(秋草俊一郎訳、松籟社)を読み終えました。
この作家初の散文集だからに間違いないでしょうが、作家自身について書かれている「他者の人生」や「戦時の生活」、「あり得ざることあるならばあれ」等の些か重い主題の文章もあるものの、収められているどの文章も考えさせられる部分が多く、読み終えた後に読んで本当に良かったなと思いました。
個人的には飼い犬との思い出を綴った「犬の人生」やアメリカでの住所の変遷が書かれている「フラヌールの生活」、シカゴに来てからのサッカーを行う環境等について書かれた「神が存在するのなら、堅忍不抜のミッドフィールダーにちがいない」、父親とチェスにまつわる思い出を描いた「グランドマスターの人生」と言った若干軽めの内容の文章が印象に残りました。
ただ、最後の「アクアリウム」は読み進めるのに本当に苦労しました。症例が少ない病気で子供が苦しみ、死が近づいているのに見ているしかないのはこれほどまでに悲しく辛い事なんですね…。
最後に、(本当に蛇足ですが)自分に対して文句を言うと、もう少し考えながら生きないといけないな、成長はないなと思いました。ああ、情けない…。
『野口冨士男犯罪小説集 風のない日々/少女』
先日新聞の広告で発売を知り、広告を見た翌日すぐに書店に買いに行きました。
どちらの小説も以前に読んでおり、今回は再読となるのですが、どちらもとても面白く、僕はやはり野口冨士男の小説が好きな事を再確認しました。
以下、感想(めいたもの)を書いておきます。
・「風のない日々」:昭和9年から11年にかけての東京で、銀行員の鈴村秀夫が、結婚して2年もたたない妻を殺してしまう内容なのですが、収入や性生活等の登場人物の出自や日常、当時上演されていた映画等の風俗や社会状況が細かく書かれているので、展開にさらなるリアリティと必然性が加わり、最終的に些細な原因から妻を殺してしまう結末の衝撃がより大きくなったと思います。
しかし、この小説が実際に起きた事件を元にして書かれているとは思いませんでした。
そして、前回読んだ時に妻殺しの印象が強すぎたのでしょうか、今回読み始めるまで、この小説についてはそれしか覚えていませんでした。ああ、情けない…。
・「少女」:昭和21年に起きた、復員兵の若い男小倉恭介が小学6年生の良家の美しい令嬢杉富ゆたかを誘拐して連れ回したあげく、逮捕される内容なのですが、主人公小倉恭介は勿論ですが、杉富ゆたかについての描写が特に印象に残りました。最後の場面も含めて純粋だな…。
そして、この小説も描写が多く、読んでいて戦後の状況を知る事ができて、かなり興奮しました。こんな事件が起きても仕方ないのかもしれませんね…。

