F9の雑記帳 -68ページ目

『さみしいネコ』



 早川良一郎『さみしいネコ』(池内紀解説、みすず書房)を読みました。
 収められた17篇のエッセイは、どの文章も読み終えた後非常に満ち足りた気分になりました。ああ、定年退職後の日々のあれこれ…。
 ただ、巻末の解説にあるような(1981年に潮出版社から刊行された『さみしいネコ』から2篇のエッセイとあとがきを削り、別に1篇を入れる)編集がされていなければ、別の感想を持ったかもしれません。
 と言う訳で(?)、どのエッセイが一番印象に残ったかと言うのは難しいので書きませんが、「さみしいネコ」に出てくる寂しさから異国で狂死した猫の三毛の話は衝撃的でした…。

『黄金虫変奏曲』



 リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』(森慎一郎・若島正訳、みすず書房)を読みました。
 読んでいる途中でタイトルの意味(エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』とバッハの『ゴルトベルク変奏曲』の洒落)が分かった時は嬉しかったのですが、遺伝やコンピューター科学等内容が盛り沢山で読み終えた後自分が疲れているなと感じました。
 個人的には、ほぼ交互に書かれている1950年代後半の男女(ステュアート・レスラーとジャネット・コス)と1980年代前半の男女(ジャン・オデイとフランクリン・トッド)の恋愛模様が読めれば十分だったのですが、人間が他の一人の人間を理解しようとするとこの小説程度の文量((基本)一行24字×20行の二段組で約850頁)は最低限必要なのでしょうね…。
 ただ、(訳者あとがきに書かれているような)作者の仕掛けには気づきませんでしたが、この小説が「祝福の歌」(863頁)であり、伝えたいメッセージが「とにかく試みろ、そしてこの奇跡的な世界に驚け」(863頁 )であるのが読んでいて良く分かり感動しました。

「N/A」



 年森瑛「N/A」(『文學界』2022年5月号所収)を読みました。
 第127回文學界新人賞受賞作。
 読み出した当初、主人公が私立中高一貫校の高等部の二年生、なおかつ「ただ股から血が出るのが嫌なだけで」(33頁)生理を忌避し拒食する女性と言うので余り想像力が働かずかなり腰が引けていたのですが、周囲の気遣いやLGBTフレンドリー等の現在の問題、あるいは人間関係が違和感なく一定の安定感を保って描かれており、読んでいる途中(特に、34〜36頁にあるうみちゃん(女性)と付き合うのを止めようとする場面で、本当はうみちゃんの言う事が本来なのに、心の中で主人公に思い切り肩入れして彼女を非難してしまいました…。)で小説の内容に引き込まれている事をはっきりと自覚しました。
 そして、その状態なら仕方ないのでしょうが、主人公が偶然出会ったうみちゃんに対して謝る最後の場面ではかなり気持ちが凹んでしまいました。全く小説の世界に入り込みすぎですね…。
 しかし、表紙に“六人の選考委員が全員一致で選んだ”と言う文句を疑ってしまった自分が恥ずかしいです。「嘘つけー」と声には出しませんでしたが心の中では叫んでいましたし…。何度も書いていますが、予断なく読まないといけませんね。