F9の雑記帳 -67ページ目

『最後の宇宙飛行士』




 デイヴィッド・ウェリントン『最後の宇宙飛行士』(中原尚哉訳、ハヤカワ文庫)を読みました。
 個人的には(帯にあるような)“ファーストコンタクトSF小説”は何だか敬遠していたのですが、いざ読みだしたら一息つく事がなかなか出来ず僕でもSF小説が読めるんだと少し安心しました。
 しかし、事故で宇宙開発が停滞する世界の到来、地球に近づいてくる天体の存在(僕は巻末の「訳者あとがき」にあるオウムアウアはこの本を読むまで知りませんでした。)、それに乗り込む(小説の登場人物達のような)人々等はある程度想像しつつ読んでいたのですが、人を襲う触手や天体との意思疎通のための方法の描写は勿論の事地球に近づいてくる天体が宇宙船ではなかった事は僕には衝撃的でした。
 あと、(登場人物達の一人が起こした事象により)一見するとハッピーエンドに見えてしまう結末になっていますが、地球からそれ程遠くない惑星での出来事なのに喜んでていいのかなと思いました。
 これは続編があるのでしょうか。
 取り敢えず、先日書店で題名に惹かれて購入した自分に感謝しないと、ですね…。

「点滅するものの革命」




 平沢逸「点滅するものの革命」(『群像』2022年6月号所収)を読みました。
 「家庭内安心坑夫」と同じく『第65回群像新人文学賞当選作。
 個人的には、就学前の女子が語り手とはいえこれだけ綺麗に思考や感覚を整理できるのか不思議に思わなくもなかったのですが、読んでいて(少なくとも)「家庭内安心坑夫」よりは気持良かったですし楽しかったです。
 しかし、働かずに大金を得たいと仕事をせずに日中河川敷を掘ったり草刈りをしたりしている主人公の父親、かつて麻雀プロだったが今は雀荘を経営している鈴子、主人公の父親と出逢った際の経緯から「レンアイ」と呼ばれるようになったワタナベ、糖尿病により左足を失うも(途中行方不明になったりしたが)義足を自分で作ろうとして完成させたクボヤマ、主人公の父親と合わない自衛隊員のコバヤシや、メタルバンドが好きでスプリットタンにしたユッコと主な登場人物は誰彼問わず一癖あり、着地点が特にない会話もなかなか強烈でした。
 まあ、読んでいて面白かったので問題ないのですが…。

「家庭内安心坑夫」




 小砂川チト「家庭内安心坑夫」(『群像』2022年6月号所収)を読みました。
 第65回群像新人文学賞当選作。
 正直な所、読んでいて月に数件の買い物代行以外はほぼ引きこもり状態の主人公藤田小波の行動があまり好きになれなかった上、ある事をきっかけに自身の思い出の地の廃鉱にいる(彼女の母から「父」だと聞いた)マネキン(「尾古沢ツトム」)に会いに行き、最後にはそれを盗み出すと言う行動と展開はちょっと受け入れ難く、読み終えてすぐはこの小説とはすれ違いが多かったように感じました。
 それだからでしょうか、最後の最後で彼女にとって過去がつまらなくなった途端に現実から幸せがうしなわれているというのは(主人公には失礼ながら)何だか小気味よく感じられました。
 もっとも、主人公の実家の状況等が展開の伏線だったのだと言われればそれまでですが。
 ですが、読み終わった後時間が経つにつれ、(恐らく主人公の妄想小説だろう)尾古沢ツトムの坑道での事故についての描写等を思い出しては、“女性だからこそこの小説が書けたのかな”と思いはじめ、何だか複雑な気分になりました。
 (思い切り偏見ですが)男性の作家だったらもっと淡白で短く書くのではないでしょうか…。