F9の雑記帳 -56ページ目

「それは永遠でない、もっとすごい」ほか




 今日『群像』2023年2月号を購入したところ、井戸川射子の小特集が組まれており、「それは永遠でない、もっとすごい」と「野鳥園」が掲載されていました。
 以下に、2作品の感想(めいたもの)を書いておきます。
・「それは永遠でない、もっとすごい」:読み終えて、子と出会い、日々を過ごす事は「永遠でない、もっとすごい」事なんだなと強く感じました。
・「野鳥園」:芥川龍之介賞受賞第一作。主人公(と言っていいのか良く分かりませんが。)の男性と子育て中の女性との会話、それに対する彼の思い…。野鳥が争ったり、犬が吠えたりと言った些か喧しい場面はあるものの、分量的に短く全体的に静かな小説なのですが、子育て中の女性は大変だと言うのは読んでいて十分に理解できました。また、内容を十分に踏まえているからだと思いますが、最後の「耳は自分以外を忘れる」(62頁)と言う文章が幾分詩的であるのに、いやそれ故かは分かりませんが、個人的には痺れました…。

「エレクトリック」



 千葉雅也「エレクトリック」(『新潮』2023年2月号所収)を読みました。
 この小説は主人公である高校二年生の達也と彼の父親とのあるアンプにまつわる出来事についての小説で、読んでいて作者自身の経験をかなり盛り込んでいるだろうなと感じられて、面白かったです。
 また、オーディオについては無知なので勉強になりましたし、オウム真理教や新世紀エヴァンゲリオン等90年代中頃の事柄も懐かしかったです。
 あと、作者の性的な部分が出たら少し嫌だなと思っていたらそれほどでもなく安心しました(←随分失礼だとは思いますが…。)。

『絶縁』


 アルフィン・サアット、チョン・セラン、郝景芳、韓麗珠、ラシャムジャ、連明偉、グエン・ゴック・トゥ、村田沙耶香、ウィワット・ルートウィワットウォンサー『絶縁』(及川茜、藤井光、大久保洋子、星泉、野平宗弘、吉川凪、福冨渉訳、小学館)を読みました。
 この本は「アジアのいろいろな地域の作家たちと共に本を作るという企画」(3頁)から生まれ、9人の作家の小説が収められています。
 個人的には内容的に強烈な「無」、日本的な湿った詩性が感じられた「穴の中には石蓮花が咲いている」「逃避」「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」が特に印象に残りましたが、以下にそれぞれの小説の感想(めいたもの)を書いておきます。
・村田沙耶香「無」:まさに流行と宗教は紙一重。村田沙耶香の世界全開だなと思いました。
・アルフィン・サアット/藤井光訳「妻」:一夫多妻制は、女性にとっては非情な面を持っていると強く感じました。
・郝景芳/大久保洋子訳「ポジティブレンガ」:光の裏には闇。個人の行動一つで世界の調和は崩れるが、同時に希望はなくならないのだなと強く感じました。
・ウィワット・ルートウィワットウォンサー/福冨渉訳「燃える」:小説の中の現在、そして過去の底辺に漂う空虚感のせいか、読んでいて些かやりきれない気分にさせられました。
・韓麗珠/及川茜訳「秘密警察」:ウイルスの蔓延を理由とした隔離生活云々はともかく、ある出会いから自分のトラウマを他人に話す状況に至る展開は読んでいてなかなか辛かったです。
・ラシャムジャ/星泉訳「穴の中には石蓮花が咲いている」:主人公は悲しい状況にあり、物語全体は悲しいはずなのに、最後の最後で少し気持ちが明るくなりました。
・グエン・ゴック・トゥ/野村宗弘訳「逃避」:自宅の風呂場で倒れた女性が、意識が遠のく中で考えるのは息子と孫の事…。読んでいて少し苦しかったです。
・連明偉/及川茜訳「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」:台湾とセントルシア、二国間の関係も興味深かったですが、主人公である修立やアンデル、イシュマエルと彼らを見つめるシェリスおばさんの姿が印象に残りました。
・チョン・セラン/吉川凪訳「絶縁」:ある事件を追った結果、二人の先輩と絶縁する主人公佳恩の行動や思考も興味深かったですが、同じ状況に自分が置かれた時に果たして「思考を外注」(402頁)せずにいられるかどうかは自信がないなと思いました。