F9の雑記帳 -42ページ目

「シャーマンと爆弾男」



 赤松りかこ「シャーマンと爆弾男」(『新潮』2023年11号所収)を読みました。
 『海を覗く』と同じく、第55回新潮新人賞受賞作。
 現在は多摩川の様子を観察しながら母が入所している老人ホームに時々お見舞いに行く日常を送っている主人公アリチャイ(優子)は、南米で族長である母親にシャーマンとして育てられ、帰国後7歳の時にイヌワシに目を抉られて失明したと母親に聞かされて育ったのですが、老人ホームでの母親の姿や主人公が身体の不調を調べてもらうべく向かった病院での出来事から、自分が信じていた多くの事柄が母親の作り話だと分かり落胆するものの、母の作り話が生み出した事柄を信じて生きていく選択をすると言う展開は、個人的には分かりにくかった上になかなか受け入れる事ができませんでした。
 また、主な登場人物のうち、寺の息子でありながらキリスト教徒となった活動家で、逮捕経験もあり爆弾を作っているヨハネ蓮四郎(柘植蓮四郎)の語りや思考は個人的に読んでいて面白かったのですが、主人公の行動とあまりにも絡んでいなさすぎてどうなのか、また主人公の行動等にヨハネ蓮四郎を絡ませるべきではなかったのかなと読んでいる間と読み終えた後にも思いました。

「海を覗く」



 伊良刹那「海を覗く」(『新潮』2023年11月号所収)を読みました。
 第55回新潮新人賞受賞作。
 主人公の高校2年生の速水圭一が同級生の北条司に惹かれ、美について考えたり先輩と話したりする中で一人気持ちが高まっていく姿が(全体を通じて)古風な文体で描かれているのですが、現在の高校生なら絶対に使わないだろう熟語や語句の使用、あるいは携帯電話に関する事柄が一切登場しないのには驚いたものの、(所々にある独りよがりな部分や非常に映像的な最後の場面も含めて)かなり面白いなと感じました。。
 まあ、文体については、作者が受賞者インタビューで述べている「三島由紀夫が好きで、あんな美しい文章を書いてみたいと思った」(131頁)と言う事が全てを表しているんだろうなとは思いますが…。
 あと、個人的には、こんな人達がもし身近にいたら無視するでしょうが、速水圭一の所属する美術部部長である矢谷始、そして彼が通っている予備校の同級生で非常に醜いと言われている棚橋美穂が印象に残りました。
 矢谷始と速水圭一とが交わす会話の内容の強烈さと個性、棚橋美穂の矢谷をモデルにした残酷な絵と冷静な観察眼…、いやはや、読んでいて何だか怖かったです。

『閉ざされた扉 ホセ・ドノソ全短編』


 ホセ・ドノソ『閉ざされた扉 ホセ・ドノソ全短編』(寺尾隆吉訳、水声社)を読みました。
 僕は『夜のみだらな鳥』を以前から読もうと思うだけで実行せず、ホセ・ドノソの他の長編小説にも手を出そうともしないどうしようもない男というのを先日痛感しましたので、この本も最近出版された事だし、「短篇小説から始めてみるか」と思い(←失礼千万!)読んだのですが、収められている14篇の小説のうち、、自分が見る夢の中にあるだろう素敵なものを追いかけようとし続けた男の最後が印象的な「閉ざされた扉」、叔父叔母と同居していた幼い頃に起きた事件とその前後を描いた不思議な味わいの「散歩」、自分の趣味を否定された男が高揚感とともに悲劇的な最後を遂げる「サンテリセス」が印象に残ったものの、それ以外の小説は個人的に微妙な感じでした
 総じて、それほど面白くなかったです。
 そして、読み終えた後、(巻末に収められている)カステジャーノス・モヤの文章の様にはホセ・ドノソの小説を好きになれないのだなと思いました…。