F9の雑記帳 -21ページ目

「ログアウトボーナス」



 津村記久子「ログアウトボーナス」(『文學界』2024年11月号所収)を読みました。
 この小説には、スマートフォンでプレイ可能なあるソーシャルゲームにログインする誘惑から脱却しようとする主人公の姿が書かれているのですが、途中で「スリップ(再利用)」してしまう主人公の姿が登場する度に「気持ち、良く分かるなあ」と何度となく頷いてしまいました。
 そして、ログアウト3日でアイスクリームを1回食べられる、50日経過で任意の一輪挿しを買うという目標設定がいかにも女性的で可愛いなと思いました。
 しかし、仕事中にゲームの事を考えたりするまでに日常生活の中心になってしまうのですから、程度に関係なく依存症は怖いなと思いました。
 あと、個人的には終盤の展開が中盤までの雰囲気とは違う(まさか食べ物の話題で終わるだなんて…。)のは素敵だなと思いました。

「ダンス」





 竹中優子「ダンス」(『新潮』2024年11月号所収)を読みました。
 第56回新潮新人賞受賞作の一。
 自分自身の行動に対して厳しい評価をする主人公、仕事はできるのに社内恋愛で失敗したり酒にベロベロになる等、「やせ衰えていくことが生命の輝きであるかのように、苦しんでいるんだか楽しんでいるんだかよく分からないダンスを踊っているように」(21頁)ある時の主人公に見えてしまう下村さん、他人に対して優しい山羊みたいな顔をした係長…、登場人物それぞれの行動や会話の描写が細かい上にはっきりしているので、読んでいて分かりやすく面白かったです。
 そして、主人公が若い頃の話だけで小説が終わっていてもそれなりに面白かったでしょうが、「十数年と言う時間があっという間に経った」(34頁)後の話が加わる事で余計に面白さが増したのではないかと思いました。
 あと、個人的には、下村さんが(どれだけ時間が経っても)「やっぱりイライラする」(40頁)と感じさせてしまう人物のままだった展開に何だか安心しました。
 ただ、読み終えた後で、(主人公の性格の設定からして100%ないと思いますが)仮にこの小説で主人公が下村さんや他の登場人物達にビンタしていたら、この小説は果たして成立したのか及びどのぐらい歪んでしまうのだろうと考えてしまいました…。

「ハイパーたいくつ」



 松田いりの「ハイパーたいくつ」(『文藝』2024年冬号所収)を読みました。
 第61回文藝賞受賞作の一。
 仕事で本来の千倍の代金を振り込むミスを犯してしまい、会社の中で立場が無くなりかけている「私」と主人公を庇った上司のチームリーダーの二人を中心として小説が進んでいくのですが、大柄のチームリーダーが「私」のお気に入りのジャケットを着てウォーキングを楽しみ、その途中で床に落ちたボタンを食べた辺りから内容が暴走し始めて、驚くと同時にうんざりしてしまいました。
 そして、上記の場面以降は読んでいて面白いは面白いものの、(主人公が仕事中に個室のトイレで眠ったり、二人の上司が肩車をして主人公を注意する等の)設定や描写の一部に対して「絶対ありえないじゃないか」と感じて何度も読むのを止めたくなりましたが、どうにか我慢して読み進め、最後まで読み終える事が出来た時は(僕自身を)少し褒めてやりたくなりました。
 しかし、笑いを書きたいからと言って、ラップ風の文体も含めて、設定や事実をそんなに漫画的にしなくてもいいのではないのでしょうか…。