F9の雑記帳 -20ページ目

「かう人」



 王谷晶「かう人」(『文學界』2024年12月号所収)を読みました。
 “主人公はペットを飼っていないのに、ペットを飼うのがOKなアパートに住み、アパレル会社のブランドの商品発送の仕事をしている女性、堺。彼女の住んでいる部屋の隣の部屋に越してきた男性(いぬかい)が連れてきた“ペット”のフク”(と呼ばれている男性)の存在が彼女の日常が変化させていく。そんな中、彼女の中にある感情が芽生えて…。”
 …この小説は上記の様な内容で、途中まで「少女漫画にありそうな感じだな」と途中まで読んでガッカリしましたが、男女がすぐに恋に落ちず、主人公の日常生活の中でYouTubeチャンネルの視聴がかなりのウエイトを占めていたり、物語の後半の様相が変わるとある行動の原因の一端がYouTubeチャンネルである等、現代の日常生活が最後まである程度しっかりと書かれていてホッとしました。
 ただ、この小説の中でのいぬかいの行動全般や小説の終盤における堺の行動しようとする動機が所有欲や支配欲だけのように見える場面も多々あり少し怖かったです。
 もし、この小説が最後の場面で終わらなかったら、堺はいぬかいと同じ道(人間に対して恋愛感情を持たず、財力等を武器にして自分が思うように従わせる)を辿るに違いないと思ったのは僕だけでしょうか…。

「白き天使」



 沼田真佑「白き天使」(『文學界』2024年12月号所収)を読みました。
 この小説は、東京が嫌いな主人公が東京のある街で猫とともに暮らす姉の住まいを訪ね、思い出を振り返りつつ一晩経ってガラリと様子が変わった彼女の姿に戸惑う様子が主に書かれているのですが、読んでいて人に対して優しかったのがつっけんどんになると言う姉の態度の変貌ぶりに驚き、思わず叫びたくなってしまいました。
 もっとも、主人公が考えるように東京の街気まぐれな猫に感化されたのかなのか、本当の原因は本人にしか分からないのでしょうが…。
 また、前半に東京に向かう飛行機で座席が隣になった背の低い年上の女性や、姉と別れた後泊まる事となるホテルで出会う男女の従業員も、小説の上でかなり効果を上げているなと個人的には思いました。 

『ササッサ谷の怪』





 コナン・ドイル『ササッサ谷の怪――コナン・ドイル奇譚集』(小池滋監訳、北原尚彦編、中公文庫)を読みました
 この本には14篇の小説が収められているのですが、盗みや殺人の話が若干多めに選ばれているからなのでしょうか、(個人的には)読み終えて面白いと思うだけで終わる小説が多いように感じました。
 とは言え、歴史に“もしも…”はありえないとは言え、第一次世界大戦末期にドイツ皇帝ヴィルヘルム二世がベルギーに亡命せず、この小説のように決断し連合軍と一戦交えていたら、第一次世界大戦後のドイツの国としての歩みは大きく変わっていたのではないかとだろうと思わせてくれた「死の航海」は強く印象に残りました。
 もっとも、「運命の女神はやはり賢明だったと言えよう。険阻な山道を行くよりも、平坦な道を行くのが良かろうというものだ。」(299頁)と言うのは至極当然な感想なのでしょうが、少なくともドイツに対する見方は変わったのではないか、第一次世界大戦後に多額の賠償金を請求される事はなかったのではないかと考えてしまいました。
 あと、「やりきれない話」の内容が本当にタイトル通りで、極めて能力の高い女性と彼女の優しさに甘える男性、その落差が強烈で、最後の作者の感想(めいたもの)も含めて惹かれると同時に、読み終えた後は本当に“やりきれない”気持ちになりました…。