Distance~時を超え距離を超えた二人の物語 -8ページ目

第86話~教えてくれ

ひろはみきにいじわるな質問をしてみた。

「みき 聞くけど、帰ってくる理由を教えてくれ」
『どうしてそんなこと聞くのよ!」
「帰ってくる理由はなんだよ?」
『言わせるつもり?』
「ああ」

『あなたがそこにいるからに決まってるでしょ!』
「そうか」
『まったく もう!』
「あはは ゴメンゴメン』

分かってるくせに聞いてみたい気持ちになった、ひろだった。

嬉しさをどう表現したらいいのか‥‥

「オマエのことはオレに任せておけ」
『うん』
「死ぬまで大切にしてやるから」
『うんうん』

第85話~決心

二人での会話は数年ぶりだったが
子供の将来を思う親としての気持ちは、
母親のみきも父親も一緒だった。

帰ってみきは、
ひろに帰郷の決意を報告した。

「わたし、北海道にかえるよ」
『そうか』
「うん」
『もう、後ろ髪を引かれる材料はないのか?』
「うん 大丈夫」
『わかった それじゃ みきが帰ってきてからこの部屋を片付けよう』
「どうして?」
『オレたちの居場所を二人で作ろうぜ』
「うんうん」

みきとの約束どおり迎えに行くまであと一週間になった。

第84話~迷い

故郷へ帰ることが決まったみきだったが、
残していく息子のことがまだ気掛かりでいた。

朝きたひろへのメールの返事はだんだんと遅くなっていった。

ひろはそれが、
みきのそんな気持ちを分かっていたから、
何度もメールしたり返事を催促したりすることをしなかった。

「また帰るのを迷っている」
『そうか。みきの思うようにしたらいいさ』
「うん」
『オレは笑顔のみきを迎えに行きたいから』
「うん」

みきは子供のことで今夜、息子の父親に会い話し合うことになっている。
どういった話をするのかひろは知らないが、
その結果によってはみきの帰りが延期になるかも知れない。

『不安とかわだかまりとか、そんなことが解消できて、
オレたちの周りのみんなが幸せになることをオレは願うだけ』

そうメールを送った……

第83話~帰郷の決意

正月休みが終わって数日経ったある日の朝、みきからメールがいつものようにきた。

「帰ることにしたよ」

『えっ?』

「一月中に帰ることにしたよ」

『そりゃマジかよ?』

「うん 母とも子供とも話し合った結果、そう決めたよ」

ひろは半信半疑だった。
メールの文章からまだなんとなくそう思った。

そして仕事を終えた夜に電話をした。

「本当に帰って来るのか?」

『うん 帰るよ』

「そうか わかった。それじゃ 迎えに行く!」

『ほんとに?』

「ああ ほんとうさ」

『うん』

ひろは、みきの言葉のひとつひとつに元気の足りなさを感じ取った。

だから手放しでみきの帰りを喜べなかった。
それはきっと、
まだ息子と離れて暮らすことにどこか心配な面があるのではないかと、
そう思ったからだった。

でも、そうなんだろうとは聞けなかった。

迎えはいつ、どうするか。
帰路はどうしようか。
電話であれこれ話し合った。

「二人で移動するとお金がかかるから、わたし一人で帰るよ」

『いや、オレは約束したとおり迎えに行く』

「無理しなくていいよ」

『オレの好きにさせてくれ。
大袈裟に聞こえるかも知れないけれど、オレなりのケジメなんだ』

昔は何度も我慢したり迷っていたことで後悔していた自分…

もうそんな思いはしたくなかった。
だからどんなことをしてもみきを迎えに行きたかった。

そして話し合った結果、
ひろがみきの元へ行く日と方法が決まった。

第82話~帰りたい

「帰りたい…」

『うん オレはいつでも待ってるよ』

「うん…」

みきは息子と何度か離れて暮らす話をした。
彼は母のことを思うと、
北海道に帰って暮らすことが幸せになれると言った。

「やっぱり広島に来る気はないの?」

『うん 仕事を探したりすることを考えたり、
いずれは北海道に帰って来ることを考えたら…』

「うん…」

『オレはやっぱりこっちで
 みきとの生活基盤を作った方が良いと思うんだ』

「考え直して。ずっと大事にしてあげるから」

『だから オレはオマエの帰りを待つよ』

そんなやりとりがよく続いた。

みきは仕事先の経営者とうまくいかず、同僚と会社を辞めた。
仕事を探しはじめたがなかなか思うような就職先が見つからなかった。

「仕事もなかなかないし、帰ろうかな」

『そうかあ』

「うん」

『いつでも帰って来いよ、待ってるから』

「うん」

ひろはみきの状況を考えると「帰って来い」と強くは言えなかった。
だから、いつ帰って来てもいいとしか言えなかった。

そんな日々が続いたある日、
みきは母親と電話でじっくり話し合った。
母親はみきのことをとても心配していた。

そして将来のことを考えると北海道に帰って来ることが、
やはり幸せになれると説いた。

ひろはそのことを知らなかった。
そしてまた…

「私 北海道に帰るよ」とひろにメールした。

ひろはまた、
みきの淋しさからの故郷への思いだと
いつものように頷いていた。