Distance~時を超え距離を超えた二人の物語 -15ページ目

第51話〜シーツの距離

古いホテルに入ってすぐ、
ふたりは立ったまま、また長いキスをしあった。
それは今までの時間を取り戻すかのように。

みきがシャワーをしているとき、
ひろはベッドで仰向けになって煙草をくゆらしながら
天井を見つめていた。

 「どうなっていくんだろう オレたち」

ふたりの間にはもう、何の壁もない。
だからこれからは自分の気持ちに正直になろう。
そう思うとみきのことが欲しいと思った。

みきは、ひろとここに来たことを考えた。

 『酔ったから?酔った勢いで?」

自分に問いかけてみたが、答えはそうではなかった。
みきは自然な流れでここにいるんだと思った。
不安も後悔もなかった。

やがてふたりのシーツの距離は、なくなっていった。

 「みき 好きだったよ ずっと」

 『私も 好きだった 忘れたことなかった』

これ以上の言葉はなかった。必要なかった。

懐かしい声、懐かしい唇、懐かしい体‥‥
夜更けまでふたりは確かめ合っていた。

昔のように抱き合ったまま朝を迎えた。


Distance~時を超え距離を超えた二人の物語-ホテル

第50話〜夜霧

カラオケ店を出ると、
古い港町に良く似合う夜霧だった。

 『そろそろ、帰ろうか』
 「うん そうだな‥‥」

そんな言葉とは裏腹に
ふたりとも帰りたくはなかった。

ひろはクルマに傘を取りに行った。
そしてタクシー乗り場とは違う方向を歩き出した。
もちろん、傘の中にはみきがいた。

 『どこへ行くの?』
 「黙ってついてこいよ」

ひろはみきの腕を引き寄せた。

歩く方向はだんだんと繁華街を離れ、
古いホテルに向かっていた。
みきの歩くスピードが少し遅くなった。

ひろはそんなみきのスピードを速めようと、
少しだけ腕を強く引きながら進んだ。

みきは付いて行こうと決めた。

そして、古いホテルの中にふたりは消えた。
 

第49話〜キス

坂の上にある小さなカラオケ店に入った。

みきの歌うものは、ふたりにとって懐かしい曲ばかりだった。
ひろは昔、みきとクルマの中で聞いていた古い曲を歌った。
歌って欲しい懐かしい曲をリクエストしあったりした。

みきは窓辺の席に座っていた。
ひろは入り口に近い席に座っていた。
そのふたりの距離は遠かった。

ここでもふたりは散々飲みながら、歌った。
楽しい時間が過ぎて行った。

みきはトイレから帰ってくると、
いきなりひろの隣に座った。
一気に距離は近くなった。

その時ひろはラブソングを歌っていた。
それはみきへの思いもあった。
古い古いジュリーの歌だった。

みきはひろの肩へもたれかかってきた。
ひろは歌いながらみきを抱き寄せた。

そして曲は終わった‥‥

 「酔っちゃった‥‥」

みきはひろの目を見つめて小さく囁いた。

次の瞬間、
ひろは何も言わず強くみきを抱き寄せて
みきのくちびるにキスをした。

とても自然な流れだった。

静まり返った部屋で、
ふたりは懐かしむように長い時間キスを繰り返した。
最後のキスから24年‥‥
懐かしい香り、懐かしい唇だった。

ふたりの新しい物語の幕開けとなった‥‥







第48話〜食事

仕事を辞めたひろは急にみきに逢いたくなった。
次の仕事も確保した。
あとはいつ家を出るかだけだった。

秋も深まっていくある夜
ふたりは運河沿いの寿司屋のカウンターにいた。

 「一緒にメシを食うなんて ひさしぶりだな」
 『そうね いっぱい食べよ』
 「うん」

お酒も寿司も美味かった。
他愛のない話をして久しぶりに楽しい食事だった。

 『お酒がもっと飲みたいな』
 「そうだな」
 『どこ行こうか』

ぶらぶらと繁華街を歩いた。
そして少しだけおしゃれな、若者が好むようなバーに入った。

手前に大きなカウンターがあって、
その奥にはボックス席があった。

ふたりはさらに奥の大きなソファーが置いてある席を選んだ。

壁には大きなモニターがあって、
バレーボールの試合が映し出されていた。
それをふたりでのんびり見ていた。

ふたりにほとんど会話はなかった。
話すとすれば、飲み干したカクテルを注文する時くらいだった。

 「次は何を飲もうかな?」
 『これなんかいいんじゃない?美味しそうよ』
 「そうだな それにしよう」

ふかふかのソファにふたり並んで、
それはまるで家にいるような雰囲気だった。

 毎日がこうだったらどんなにいいか‥‥ひろは思った。

 ひろといると安心できる‥‥みきはそう思っていた。


そしてふたりとも散々飲んで
バーを出たときはすっかり酔っていた。
心地良い酔いだった。

 「カラオケでもしようか」
 『うんうん 行こう行こう』

ふたりのこれからを決定づけるまであと数時間だった。



第47話〜岬にて

昔、ふたりで何度も行った海へ向かった。

 「海を見に行こうか」

 『うん、でも、遠くはイヤよ』

夏ももう終わりに近いこの日は、
まだ夏らしい青い空と、心地良い風がそよいでいた。

海を見つめているみきを、ひろは後ろから見つめていた。
みきの後ろ姿を見てひろは切なくなってきた。

昔のようにまた、

 「どこかへ連れ去りたい‥‥」

そんな昔と同じような思いが込み上げてきた。

ふたりでカモメの飛ぶ姿を見つめていた。

カモメは、何度も同じ経路を飛ぶ。
同じ場所から飛び立って、また同じ場所に戻る。
ひろは写真を通じて、その生態を良く知っていた。

それは‥‥
ふたりの過去、現在、そして未来を暗示していたのだった。

 「お互い大変だけど、頑張ろうぜ」
 『うん。そうね』
 「今度ゆっくり、メシでも食いに行こう」
 『うん』

そして、その日は別れた‥‥


Distance~時を超え距離を超えた二人の物語-岬にて