hy Loves … -350ページ目

永遠の姉妹 第15話『失踪』

「来ないで。警察呼ぶわよ!」
知香子は叫んだ。しかし、麗香は笑いながら一歩一歩近づいてくる。
「あんなに尽くしてきたのに…。欲しいものは何でも買い与えてやったし、豪の頼みなら何だってしてきたのに…」
麗香は、知香子につかみかかった。
命の危険を感じた知香子は、腹部を庇いながらも応戦する。ふたりは、押し合いへし合いしながら廊下を移動した。
ふいに、足場が消える。絶叫と共に、ふたりは階段を転げ落ちた。



「恐らくは、過労ですな。長年の披露が溜まったんでしょう。まあ、しばらく安静にしていれば心配はないと思います」
聴診器を外しながら、医師は言った。詳しい結果はまだ出ていないが、とりあえず深刻な状態ではないらしい。
「ありがとうございます」
知永子と浩二郎は、医師に頭を下げた。
「ごめんなさいね。びっくりさせちゃって」
薄いブルーの入院着を着せられた織江は、笑いながら言った。
「本当よ。いきなり倒れるんだもの、びっくりしたわ」
「あたしも、気づいたら病院のベッドの上でしょ、驚いたわ」
「まあ、いいじゃないか。特に何もなさそうで」浩二郎は、織江の手を握り言った。
「…そう言えば、奥様は?」
「…あ、あぁ。お前が倒れた途端逃げて行ったよ。まあ、俺も知永子もお前に注意を奪われていたからな。あれ、と思っていたらすでにいなくなっていたよ」
「そうなの…」
「まったく、まさかあんなとんでもないことを仕出かすなんて…。想像していた以上に恐ろしい女だったな」
「そんな…あまり奥様を責めないであげて下さい。奥様の立場からすれば致し方のないことだわ」
「まあ、そうだが…」
浩二郎は、溜め息をつく。
「それより、お母さん。お店はどうするの?」
「そうねえ…そろそろ潮時なのかしら。『長谷倉』を開いて以来、あたしもずっと馬車馬のように働いてきたから…ここらで一回、休もうかしらね」
「そうだな。それがいいかも知れないな」
「わたし、あのお店を本格的に手伝えないかしら?」
「えっ!?」
知永子の言葉に、浩二郎と織江が顔を見合わせる。
「それはいけないわ。学校はどうするっていうのよ。それに、酔いどれ達の相手をするなんて、嫁入り前の娘がしるようなことじゃないわ」
「わたし、お母さんと一緒に働きたいのよ。せっかく巡り会えた実の母娘なのよ。ねえ、いいでしょう」
「知永子…」
「ねえ、パパ。いいでしょう」
「う~ん…。そう言われてもなあ…」
「学校にはちゃんと通うわ。もちろん、卒業だってする。だから、お願いよ」
知永子は、ふたりに懇願した。
「ありがとう…。知永子」
「じゃあ…」
「その代わり、ひとつ条件があるわ」
「何かしら?」
「大学に行くこと。だから、今年一年は勉強に専念しなさい。なあに、一年なんてあっという間よ」
「お母さん!」
「あたしも楽しみだわ。来年になったら、知永子と一緒に働ける。そう思ったら励みになるわ」
「お母さん…」
母娘は、ひしと抱き合った。


会社に戻るという浩二郎を見送った帰り、知永子は思いがけない場面に遭遇する。
「すいません!通して下さい!!」
慌てふためいた様子の看護婦が叫んだ。ストレッチャーを押した看護婦が、廊下を走ってくる。
「…知香子!?」
すれ違い様に、ストレッチャーに寝かされた患者の顔を何気なく覗いた知永子は、思わず呟いた。
確かに、知香子だった。
「あの…すいません。わたし、あの娘の姉なんですけど…何があったんですか?」
知永子は、後ろから来た医師を引き留め、尋ねる。
「詳しい事情は解りませんが、アパートの階段から転落したようです」
「妹は、妊娠しているんです。赤ちゃんは…」
医師は、苦々しく眉を寄せた。
「最善は尽くしますが、恐らくは難しいでしょう…」
「そ…そんな…」
医師は、知永子に
「とにかく、最善は尽くします」
と言い置いて、手術室へと姿を消す。
「…知香子……」
知永子は、赤いランプの点った手術室の前で、手を合わせ祈った。



「赤ちゃんは!?」
目を覚ました瞬間、知香子は真っ先にそう言った。それから、知永子の存在に気づき
「お姉ちゃん…何で、ここにいるの?」
と呟く。
知永子は、無言で首を振った。
知香子は、流産だった。しかも、医師が言うには、転落の際の子宮への損傷が激しいため、今後妊娠できる可能性は、かなり少ないらしい。
「そ、そんな…」
知香子はそう言ったきり、黙り込んでしまった。静かに、涙をながす。
「知香子…」
知永子は、知香子の肩に手を置いた。しかし、知香子はそれを跳ね退ける。
「やめてよ!」
「知香子」
「同情なんかしてもいないくせに。触らないでよ!!」
「えっ!?」
「どうせ、いい気味だって思っているんでしょう。あたしが照矢の子供を…照矢との愛の結晶を授かったことを、どうせ嫉妬していたんでしょう」
「知香子、そんなこと…」
「出てってよ!」
知香子は、知永子思い切り突き飛ばした。手元にあるものを、片っ端から投げつける。
「出てけよ!!」
知永子は、成す術もなくその場に固まった。
知香子に、愛する男との繋がりの一切を失った妹に、何と声をかけてやればいいのか解らない。居たたまれなくなった知永子は、病室を飛び出した。


「照矢…」
知香子は、泣きながら腹部をさすった。
もう、ここにあの子がいないなんて信じられない。知香子は、身も世もなく泣き続けた。



翌朝、検診に訪れた看護婦は、空になったベッドに愕然となる。
「大変だわ!」
看護婦は、叫んで医局に駆け込んだ。


「知香子…」
病院から連絡を受けて駆けつけた知永子は、冷たくなったベッドを前に立ち尽くす。



<知永子達の必死の捜索にも関わらず、知香子の行方が知れることは、ついになかった。
有り余る絶望を抱え、知香子は消えてしまった。>



第一部・完

シャィニーブルーネイル☆


SサンのNEWネイルでっすhy Loves …-DIMG0067.gif
 
 
 
hy Loves …-20110120004311.jpg
 
 
シャィニーなブルーの逆フレンチベースに
 
 
 
シルバーのホロhy Loves …-DIMG0166.gifでドットを作ってみましたhy Loves …-DIMG0705.gif
 
 
 
 
左手の薬指につけた
 
 
 
雪の結晶パーツがポィントでっすhy Loves …-DIMG0628.gif
 
 
 
 
冬真っ盛りでつねhy Loves …-0okuI7_70.gifhy Loves …-1okuBd_70.gif
 


永遠の姉妹 第14話『危険な女』

「あの…落としましたよ」
診察を終え、病院を出た知香子は後ろから呼び止められる。振り返ると、夏物のマタニティドレスを着た若い女が、ハンカチを握り締めていた。
「これ…」
女は、ハンカチを差し出す。
「いえ…これ、あたしのじゃないですけど…」
「あら、そうだったの。待合室のベンチに置いてあったから、あなたのものとばかり…ごめんなさいね」
「いえ…別に大丈夫です」
知香子は、笑いながら首を振った。
妊娠に気づいてからというもの、我ながら本当にやわらかくなったと思う。これが、母親になるということだろうか。
「それより、あなた何ヶ月?」
「今、ちょうど十四周目に入ったところです」
「そうなの?」
女も、笑いながら言った。
「あなたは?」
「あ、あたし…。あたしもちょうどそれぐらいよ」
「悪阻とかひどくないですか?」
「あ、あぁ…幸いあたしは軽いみたいで助かってるわ」
女は、ハンカチで汗を拭いながら答える。女の行動に、知香子は違和感を覚えた。確か、あのハンカチを知香子のものだと思い、声をかけてきたのではなかったか。
「これから暑くて大変だと思いますけど、元気な赤ちゃんを産むためにも、お互い頑張りましょうね」
知香子は、会釈してその場を後にする。あまり係わり合いにならない方が良さそうだ、と判断したからだ。


「今に見てなさい。絶対に、元気な赤ちゃんなんて産ませやしないんだから」
知香子の背を見送りながら、女―麗香が囁いた。


「どうだった?」
作業着姿の豪が、問いかける。最近、豪は工事現場のバイトを始めた。始めのうちは借りてきた衣装のように似合っていなかったその姿も、今ではだいぶ見慣れてきた。
「順調だって。もうすぐ悪阻も楽になるだろうって」
「…そうか」
「悪阻が治まったらちゃんと料理も作るから。もう少しの間、我慢してね」
「別に、そんなことしなくていいよ」
「するわよ。だって、あたしは居候なのよ。せめてそれぐらいしなくちゃ、バチが当たるってもんだわ」
「…そのことで、お前に話があるんだ」
「えっ!?」
豪は、作業着の胸ポケットから綺麗に包装された小箱を取り出す。
「開けてみろ」
「…何これ?」
「いいから、開けてみろって」
豪に急かされ、知香子は包装を解き、中から出た小箱の蓋を開ける。
指輪だった。中心に嵌められたダイヤの大きさと輝きから、けして安物ではないことが窺える。
「こ…これ…」
「結婚してくれ」
「な、何言ってるのよ。あんた、正気なの?」
知香子は鼻で笑ったが、豪は真顔だった。
「正気だよ。だって、お前はもうすぐ十七だ。その気になれば…」
「あたしは…他の男の子供を孕んでいるのよ。本当に、解っているの?」「俺は、お前の腹の中のガキも含めて、お前を愛してる…」
「あたしは…あなたを愛してないのよ……」
「それでもいい…」
「解らないわ!」
「解らなくてもいい…」
「何で…何でなの?」
「俺は…お前を愛してるんだ。他の誰でもない。我が儘で、残酷で、あげく死んじまった男を、今でも愛してるお前を、愛してるんだ」
「…豪…」
「だから、お願いだ。俺と一緒になってくれ。俺を…お前の腹の中のガキの父親にさせてくれないか」
豪は、知香子を抱き締めた。
「なあ…お願いだよ」
「…うん」
豪の腕の中、知香子は頷いた。



<知香子もまた、束の間の幸せの中にいた。あんなことにさえならなければ、姉妹はいつか仲直りできていたに違いない。
しかし、残酷な運命の女神は、次なる試練を用意していた。>



「いらっしゃいませ!」知永子は、調理場で皿を洗いながら言った。
「知永子…」
その声に、驚いて顔を上げる。蒼白な表情の澄江が立っていた。
「お、お母さん!?」
「知永子…」
その手には、包丁が握られている。切っ先を、知永子に向けた。
「お母さん!」
「お母さんだなんて、呼ばないでちょうだい。あんたなんか、あんたなんか…生まれてこなければよかったんだ。あんたさえいなければ…あんたさえいなければ、知香子ちゃんも…知香子ちゃんも……」
譫言のように呟き、進んでくる。ついに、知永子は壁際にまで追いやられた。
「お願い…や、やめて、やめて…」
「殺してやる…」
澄江は、包丁をゆっくりと振り上げた。
「知永子、洗い物おわったかしら。あっ…」
二階から下りてきた織江が凍りつく。
「お、奥様…」
「おや、現れたね。諸悪の根源が…」
澄江は、澱んだ瞳を織江に向けた。瞬間、動物的な動きで、知永子を羽交い締めにする。首筋に、包丁を突きつけた。
「知永子!」
「動くんじゃないよ。少しでも動いてみろ。この娘の首から、血が吹き出る」
澄江は、包丁の刃を知永子に押し当て微笑む。
「お…お母さん…」
「…知永子」
織江は成す術もなく、その場に固まったまま動けない。
「何してるんだ!!」
その時、店に現れた浩二郎が叫んだ。ふいをつかれ、怯んだ澄江の手から包丁を叩き落とす。澄江の頬を、思い切り張った。
「何か胸騒ぎがしたから駆けつけてきたんだが…。知永子、怪我はないか?」
「う…うん」
知永子は泣きながら、浩二郎の胸に飛び込んだ。
「ちくしょう!皆してあたしを馬鹿にしやがって。ちくしょう!ちくしょう!!」
澄江は嗚咽しながら、床を叩く。
「よかった…」
と言いかけた織江が、頭を押さえたままふらりと倒れた。知永子と浩二郎は、慌てて織江の元に駆け寄る。
「お母さん!お母さん!!」
「織江。しっかりしろ!」
しかし、意識を失った織江がふたりの問いかけに応えることはなかった。



豪を送り出した知香子は、豪の汚れた作業着を洗っていた。洗濯機がないために、丁寧に手洗いする。
その時、チャイムが鳴った。
一体誰だろうか。訝りながら、ドアを開けた。
「…あ、あなた確か…」
以前、産婦人科の前で話しかけてきた女だ。
「こんにちは」
女は満面の笑みで、知香子に言った。背筋に悪寒が走る。
「すいませんけど…」
そう言ってドアを閉めようとする知香子の腕を、女が掴んだ。
「あなたに、お話があるの」
女は、尚も笑顔だ。
「失礼ですけど、あたしには何も…」
「あたしは、小宮麗香。あなたが今一緒に暮らしている刈谷豪の、元彼女なの…」
麗香は、言いながらドアをこじ開ける。知香子は、咄嗟に部屋を飛び出した。
麗香の瞳が、ギラリと光る。



つづく