またまたオーディション話。

今度はデンマークのとある島へオーケストラのオーディションを受けに行った時のこと...。


デンマークについて知っていること、アンデルセンにがっかり観光地と名高い人魚姫の像...。首都のコペンハーゲンにもまだ行ったことがないのに、初上陸はデンマークの右下、セナボーという島へ!


もちろんパリから直通で行くのは無理。飛行機だと高かったので悩んだが、他の行き方も分からなかったので涙を飲んでチケット購入。後々聞くと、フランスから電車でドイツを縦断して行くとか、フランクフルトまで電車で行ってから飛行機に乗るとか、みんなあの手この手でやって来ていたらしい。


そしてオーディション前日、シャルル・ド・ゴール空港から2時間ほどかけコペンハーゲン空港着。そこからセナボー行きの飛行機に乗り換えだ。


セナボーは小さい島なので、そこへ行く飛行機も小さいプロペラ飛行機。少人数で搭乗待ち。クラリネット持ったやついるかしら...と眺めていると、



チーン「(あ、いた!)」



黒いパーカーでフードを目深に被った男が、床にしゃがみ込んで座っている。俯いていて、表情は全く見えない。床においてあるのはクラリネットケースのように見えるが、醸し出す雰囲気が怪しいやつすぎる。



チーン「(ヤクの売人やんけ!!)」



失礼な話だが、ほんとにそうとしか見えなかった。彼はクラリネット吹きなのか、はたまた売人なのか...そんなことを延々と考えながら飛行機に搭乗し、セナボー空港着。


着いたのは夜だったので、辺りは真っ暗。調べてもあまり情報がなかったので、町への行き方もよくわからない。空港から出てすぐの所に止まっていたタクシーに、これ幸いと慌てて乗り込む。


するとタクシーには先客が。さっきのヤクの売人だ。しょえ〜と思いながら乗車。どないしよ〜と思っていると、もう1人青年が駆け寄ってきて相乗りしてもいい?と乗り込んできた。


そして3人を乗せたタクシーは町へと出発。知らん人と相乗りなんてしたことがなかったので、小さくなって窓の外を眺めていると、最後に乗ってきた青年が「明日のオーディション受けに来たの?」と話しかけてきてくれた。ノルウェーからやって来たというその彼も、なんとクラリネット吹きだったのだ!


私の終わってる英語で一生懸命返事をすると、今度はヤクの売人にも話しかけ始めた。売人風の彼も、やっぱりクラリネット吹き、アイルランドからやって来たそう。


ノルウェーの彼は非常に親切で社交的。彼の友人たちもオーディションを受けに来ていて、夕食を一緒にするから、君たちも来なよ!と誘ってくれた。


私はとにかくスーパー内弁慶で人見知り。英語は終わってるし、そんな、オーディションの前日に、知らん人と晩ご飯なんて.....叫び


考えただけで絶望。しかし、ノルウェーの彼の善意しかない美しい瞳を前に、お断りの言葉が出せるはずもなく...。その場で連絡先を交換し、後ほど合流することに。


ノルウェー人の友人のイタリア人女子とベルギー人男子が私とホテルが一緒だったらしく、さらに知らん奴と連絡をとって一緒にレストランへ!


到着するとそこには親切なノルウェーの彼とヤクの売人改めスキンヘッドに長い顎髭のアイルランド人、そしてギリシャ人のおっちゃんが新たに登場。神経質そうなベルギー人と物静かそうなイタリア女子&人見知りのジャパニーズ、総勢6名でのお食事会。


閑散としたイタリアンレストランで、向かい合って着席。味なんてもはやどうでもいい。「なんでこんなことに...」心の中で涙を流しながらパスタをすする。幸いだったのは、ベルギー人プラス、ギリシャ人のおっちゃんとノルウェー人の彼までフランス語が話せたということ。ノルウェーの彼は高校の第二外国語で仏語を学んだんだそう。ヨーロッパ諸国の学校の言語学習の水準の高さにマジ感謝。


宴もたけなわ。みんな食べ終わり、話題は明日のオーディションについて。



「明日は9時集合だね!」



チーン「10時集合でしょ?」



「え?」



チーン「え?」



そういえば、前日事務局からメールが1通届いていた。集合時間が10時から9時に変更したとのお知らせだったらしい。英語が面倒だったせいか、しっかり読みこんでいなかった。今日みんなとご飯を食べていなかったら、明日1人でのこのこ10時に会場に行っていたのか!ひえ〜


気づいてよかったね!とみんなに励まされホテルへ向かう。来るのあんなに嫌がってたけど、来てよかった。人と関わるって大事なことなんじゃね...なんてしみじみ思う。


そして翌朝。ホテルで朝食バイキング。小さい島なのでホテルが少なく、私の泊まったホテルもオーディション受験者だらけ。1人でベーコンと卵をつついていると、神経質そうなベルギー人と物静かそうなイタリア人女子もやって来た。


3人でもそもそと朝ご飯。ベルギー人はもともと青白かった顔がさらに白くなっていて、目元は紫色だ。ハリのない声で「昨日は眠れなかった...。」とこぼし、夜中に突然課題曲の練習をしやがったどこかの部屋の受験者に対してぶつぶつ文句を言っていた。


そうかぁ、緊張して、眠れなくて、周りが気になって...。自分だけじゃなかったんだ。当たり前なのかもしれないけど、みんな同じなんだ。今までほかの受験者はみんな敵のように感じていたけど、もしかしたら同じ大きな壁に挑戦する仲間なのかもしれない。初めてそんな風に感じ始めていた...。


そしてみんなで会場へ。今回も大部屋に通され、演奏順を決めるくじ引きが始まるまで、それぞれ思い思いの時間を過ごす。みんなが大部屋でウォーミングアップを始めるととてつもない騒音だ。うるさいから、とベルギー人とイタリア女子は大部屋の外へ出て待機。


そして時間になり、点呼開始。今回の参加者は60名ほど。1人ずつ名前が呼ばれていく。あれ、ベルギー人とイタリア女子がいない。まぁさすがに気づくでしょう...。と様子を見る。


少しして...
淡々と受験者の名前が呼ばれていく。けどまだ2人はやって来ない。ノルウェー人がソワソワし始めた。2人がどこにいるか知っているのは私だ。駆け出して部屋を出る。


外に出ると、ベルギー人とイタリア女子はイヤホンをしていたらしく、周りの様子に全然気づいていなかった。「もう点呼始まってるよ!!」と声をかけ、急いで中へ。無事点呼を終えくじ引き開始。


その後ベルギー人にめちゃくちゃ感謝された。君がおらんかったらオーディション受けれてなかったよ!って。でもすぐ近くにいたし、別に私が呼びに行かなくても大丈夫だったと思う。だけどめちゃくちゃ感謝された。私の方が助かったんだよ...。オーディションって敵しかいないと思ってた。けど、こうやって助け合うこともできるんだなぁ。


 

そしてオーディションの結果はというと...そろいもそろってみんなで仲良く一次予選敗退!やることもないので、夕方から酒を飲み打ち上げだ!

 
前日はなんだか態度がよそよそしかったギリシャ人のおっちゃん。共通の知人がたくさんいたことが判明し、すっかり打ち解け肩を組んで記念写真!ヤクの売人と思われたアイルランド人は、その風貌からは想像のつかない妙に高くておどけた声の持ち主で、アイルランドジョークを連発!全員すっかり仲良しに。


翌日も各々の飛行機や電車の時間まで長かったので、他に知り合った受験者も混ぜた大所帯でセナボー観光。帰るころには「あれ、何しに来たんだっけ?」状態に...。


ペンギンペンギンペンギン



今まで、オーディションを受けることはとにかく辛いことだった。特に自分の番まで待っている時間。オーケストラによっては親切にも一人一部屋あてがい、あまり他の受験者と会わないようにしてくれる場合もあるけど、基本的には大部屋にぶち込まれる。


ひどい時には自分の出番まで4〜5時間待ち。それぞれウォーミングアップしながら、お互いの一挙手一投足にちらりと目をやったりして...。時には、誰一人一切物音を立てず、キーンと張り詰めた空気の中待つなんて地獄もあったりして...。


とにかくびびりな私は、肉食獣の檻に入れられた哀れな草食動物よろしく、周りを気にして小さくなっていた。だけどどうだろう、肉食獣だと思っていた敵のみんなは実は親切で。同じように緊張や不安を感じていて。最後には仲良くなって。今や、またいつか会いたいな!なんて思っている。


みんなライバルだけど、敵じゃない。それどころか、話せば仲良くなれる相手かも...。そんな風に思ったら、あんなに辛かった大部屋での待ち時間も、そんなに苦に感じなくなった。今まで勝手に作り上げていた架空のエネミーにさようなら。




チーン「敵も味方も気持ち次第?!」




そしてお話は、この初めての空港泊に繋がるのだ!!!



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お月様