中身のない空疎な首相会見だった
。新型肺炎コロナウィルスの感染
拡大に全国一斉休校を唐突に要請
した安倍晋三首相の会見は政権の
無策ぶりを改めてさらけ出す結果
になった。学校、家庭にとどまら
ず社会全体に大混乱を及ぼしてい
る今回の首相判断は、専門家の意
見も聞かないまま科学的根拠もな
く下されたことが2日の国会質疑
でも明白になった。「桜」「検事
長定年延長」など一連の「私物化
」で崖っぷちに立った首相が失政
隠しの目くらましの手を打ったと
いう疑念が募る。本来なら根拠を
ただすべき会見が取材される側の
一方的な演説の場に変えられてし
まった。会見の主催者である内閣
記者会は十分な質問も果たさず、
打ち切りに手を貸した。視聴者や
読者への背信を重ねた自覚もうか
がえない。その罪状は重い。
記者の挙手が続いている中で、逃
げるように会見場を後にした安倍
首相の表情は脅えているように顔
が歪んでみえた。科学的根拠のな
い一斉休校の判断の根拠をたださ
れるのがよっぽど嫌だったのだろ
う。それでも、国民各層に異例の
負担を強いる一斉休校が最善の危
機回避策と考えたのなら、たとえ
稚拙であっても真摯に言葉を尽く
して理解を求めるのが本来の指導
者の姿である。それができないの
は、堂々と語れない邪悪な目論見
が働いていたからではないか。当
初異議を申し立てた萩生田光一文
科相を振り切り、菅義偉官房長官
と相談もしなかったのは、自分の
保身からの独断だったことを示し
ている。各社の世論調査で軒並み
支持率が下がったことへの焦りも
読み取れた。
国民生活が一変してしまう政治判
断を打ち出し、リーダーシップを
発揮すれば、皆の目がそちらに向
いてしまう。そんな頭の中が読み
取れる。それを裏付けるように、
その後の教育、生活、財政支援が
まったく語られなかった。週明け
になってようやく検査・医療体制
の改善策が担当相から説明された
が、小出しで物足りないものばか
りだった。特に陰性・陽性を判定
するPCR検査は10日までにわず
か600件しか増やさないひどい
内容だった。事態の悪化を呼びか
けながら検査数を増やさないのは
、政府全体で検査を抑制し感染者
数を増やさない意図が働いている
としか思えない。現状は感染の疑
いのある患者は検査も受けられず
一般病院に診療に出向くことも禁
じられている。まさに患者見殺し
につながる体制がまかり通ってい
るのだ。
専門家の知見も知らず、「私の責
任で」と一斉休校の判断を下した
安倍首相はどこまで自分の判断の
影響を自覚しているのか。いつも
以上の「やったふりして逃げ回る
」姿を見て、また暗然となった。
首相会見は質問が続いているのに
、司会役の長谷川栄一内閣広報官
が「時間の関係で打ち切らせてい
ただきます」と説明、打ち切られ
た。何か勘違いしているのではな
いか。会見は内閣記者会の主催で
ある。広報官に打ち切る権利など
ないはずで、首相といえども会見
に出席したのであれば、最後まで
質問に答える義務がある。メディ
ア側が経産官僚から起用された広
報官に仕切りを任せているのは、
自殺行為である。会見の運営権を
取り戻さない限り、権力の監視に
つながる質問などできるはずはな
い。
予定調和の質疑に応じている記者
らに、心ある有権者から「翼賛メ
ディア」という批判が高まってい
る。フリーランスの記者の質問が
封じられたのなら、一緒に首相に
抗議し、続けさせるべきだった。
それができないのは、「リーク情
報」をエサのようにもらって、記
者クラブの既得権益に甘んじてい
るからだ。失政がもたらした国難
とも言うべき時、記者らの後姿に
有権者が「公正な政治」を期待す
る熱い視線が注がれていることを
、一人でも思い起こして欲しい。
【2020・3・3】