人・組織蝕む「害毒」 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

 

「正確に答弁しろ」。検事長の定
年延長について連立与党の公明党
の北側一雄副代表が「つい間違え
た」とそれまでの国会答弁を撤回
した人事院の松尾恵美子給与局長
を叱ってみせた。国家公務員法の
適用解釈を政権に都合の良いよう
に唐突に変更した安倍晋三首相の
国会答弁に合わせただけの醜態を
まるで下僕のように叱り飛ばした
のである。「桜を見る会」前夜祭
の明細書の発行を認めたANAホ
テルも急に黙り込んだ。新型肺炎
ウィルスに気をとられているうち
に、不都合なことをなかったもの
にする「アベ政治」の害毒がこの
国の人と組織全体を蝕んでいる。


「検察にユダ」と呼ばれる黒川弘
務東京高検検事長の今夏検事総長
就任の道を開いた今回の定年延長
は「事実上の指揮権発動」と批判
が日増しに高まっている。強行さ
れれば、権力犯罪の摘発は今まで
以上に難しくなり、司法が行政に
従属してしまい、三権分立そのも
のが脅かされる。危険性は想像以
上に高い。なぜなら指揮権発動は
個別事件の立件で判断されるが、
政権の意向を忖度する検事総長で
あれば、権力犯罪を捜査するどこ
ろか、批判的な野党やメディアに
強権の矛先が向かいかねない。そ
うなれば、もう政府の暴走や腐敗
を防ぐことができず、民主主義が
崩壊する。


その兆候は一段と顕著になってき
ている。昨夏の参院選で演説して
いた安倍首相を野次った聴衆が札
幌、滋賀などで警察に相次いで身
柄拘束された。安倍首相側近の「
官邸ポリス」と呼ばれる警察官僚
の指示だったとされるが、検察の
トップが膝下に入れば、政権にと
ってこんな心強いことはない。


組織の憂慮すべき事態を検察は許
すのか。さすがに、異論も出始め
た。20日の朝日新聞記事によれば
、全国の高検、地検のトップが集
まる法務省での「検察長官会同」
で、中部地方の検事正が「検察は
不偏不党でやってきた。政権との
関係で疑念の目が向けられている
。このままでは検察の信頼性が疑
われる。もっと丁寧に説明した方
が良い」と発言したという。勇気
ある発言だが、「モリカケ」の立
件見送りをみれば、検察全体への
信頼性はもう以前から失われてい
た。ずるずると権力犯罪を見逃す
自堕落な組織になっていた。


ではこの流れを止めるため検察が
できることは何か。現政権の腐敗
を事件として捜査・起訴すること
以外にない。端緒はいくらでもあ
る。以前から述べているように首
相の「桜を見る会」は政治資金規
正法、公職選挙法違反容疑は明白
である。しかし黒川検事長が側用
人のように目を光らせているせい
か強制捜査する気配もない。首相
が国会で堂々と虚偽答弁できるの
はそんな安心感があるからだろう
。昨秋政権に勇退を迫られながら
もはね返したとされる稲田伸夫検
事総長が最後の気骨を示すのを望
みたい。


立憲の辻元清美議員に前夜祭の明
細書や領収書の発行を明解に認め
たANAホテルも幹部が自民党に
呼びつけられ、態度を豹変させた
。当初同じコメントしていた毎日
、朝日以外のメディアの取材も拒
絶し始めた。政権の「口封じ」圧
力に応ぜざるをえなくなったとみ
られる。ネット上でも安倍首相を
崖っぷちに追い込む「勇気ある対
応」と賞賛されたのがウソのよう
だ。辻元氏との窓口になり、誠実
に回答をした広報担当者の悔しさ
はいかばかりだろうか。


人格さえも破壊する害毒は前言を
翻した松尾局長の顔から読み取れ
た。強い力で虚偽答弁を強いられ
たこの女性官僚の顔は悔しさから
かずっと歪み放しだった。これに
追い討ちをかけるような北側副代
表の捨て台詞も看過できない。


安保法制で安倍首相に擦り寄って
解釈改憲を許した5年前の自分の
姿を鏡に映して見てもらいたい。
「アベ政治」が輩出するのはこん
な「変節漢」ばかりだ。


   【2020・2・22】