
タバコを止める時。
そんなのに特別な決意もいらなければ、周囲に宣言するようなものでもなければ、
止めたからと言って、何か世界が変わるわけじゃないと思う。
コーヒーの味だって、きっと同じように美味しいと感じるだろうし
苦手なクリームパスタは、同じように『のわ~・・・』と感じるんだろう。
自分にとってその程度のことなんだと思う。
『止められない』そんな人を気の毒にさえ思うのだから。
・・・じゃあ、吸わなくたって同じじゃない?
それは、きっとタバコとは縁のなかった人。
ある時期、自分にとっては『大学に入って一番最初の背伸び』の象徴で。
またある時期には、ひとつの付き合いの象徴で。
それからしばらく、自分には縁のないものになったけど・・・
そのまたしばらくしてからは、心地のいい動作の象徴になった。
ある時期、タバコに火をつけることで何か気持ちが安らぐ気さえした。
---火には浄化する力があるんだ
今ではまったく使わなくなった言葉・・・モヤモヤ。
それを『気持ちのいい』カタチに留めておくのに必要になったんだと思う。
自分の力で押さえ込むには、きっとガタがきてた。
『押さえ込む』・・・ほんとにその通りだ(笑)
もうひとつの最大の理由は、タバコを吸った後のトイレの匂いがたまらなく好きだったから。
ある時期までの実家の匂いにとても似ていた。
匂い・・・ついては、自分はかなり敏感な方だと思う。
この匂いは、何かの匂いにとても似ている・・・そういうのだって、なかなか良く当てられる方だとも思う。
とてもとても変な自信だとは思うけど(*v.v)。
タバコを吸った後。部屋の中にタバコの匂いが広がっていく。
煙がうっすらと天井を這っていく。
しばらくしてトイレにふと入ると、いつものトイレの匂いとは違って
父さんがいるんです。
霊感だとか、そんなのじゃなくて。
匂いでわかる。
トイレに入って、その匂いを感じながら
静かにジミ・ヘンドリクスのポスターと向き合う。
懐かしいあの頃の実家の匂い。
自然と、笑みがこぼれるのが緩む自分の口元の感覚から伝わって。
父さんがいる・・・そんな状況で、ズボンのファスナーに手をかけるのは
なんだか微妙な話なんだけれども・・・(笑)
こんなにも簡単に、あの頃の懐かしい匂いが戻ってくる。
ある時期、体調が戻らなくてトイレにこもっていても
全く苦痛じゃなかったのは、こういうコトだったり。
自分の価値観、矜持みたいなものは曲げないつもりだったし
曲げずにどうにかやってこれたと思う。
でも、色々合わせる・・・自分を先に折ることで相手の型に合わせて形を変えてきたことで
自分っていうものも見失った。
一つ一つ自分の中で変えていった形を元に戻そうとも努力したけど
『絶望』その言葉を口にして、気力が先に尽きたんだと思う。
『がんばれ!』そんな声援が一切聞こえなくなって、
走るのを止めたマラソンランナーみたいなものなんです。
走るのを止めると、それまで感じた苦痛、疲れからはすぐに解放される。
最初に口にした水は、何よりも美味しく感じられる。
もちろん、充実感や達成感みたく得られるものはほとんどないし
走り続けるチャンスもみすみす手放して。
しばらくは、途中で止めたことに後悔するもの。
『なんであの時・・・』そんな風に、やっぱり自分を責める。
でも、そこで気づくんです。
---もうアレ以上走れなかった。
自分の限界ギリギリだった。
自分に言い聞かせてるのかどうか、それは自分で決めること。
それに気づいたとき、自分の中に後悔は無くなった。
走りきらなかったことに対する自責も消えて、歩いていこう、そんな風に思うようになった。
すごすごと、そんな風に肩を落として歩くランナーにタオルを差し出す人もいるもので。
何も言わずにとりあえず迎えてくれる人もいる。
そのとき、自分の周りにいたのは
何も言わずに迎えてくれる人だった。
取りようによっては、いろんな見方ができるその態度が自分にはとても心地よくて。
青春の1ページに出てくるような暑苦しい関係じゃない
話し合うことで分かち合えるような、まわりくどい関係じゃない
本音で話すのがくすぐったいような、心地よさ。
結局、最初の最初の自分に戻ったのかもね。
---あなたに足りなかったのは、自分のわがままを通そうとする意思。
余計だったのは、相手のわがままを素直に受け入れる心。
いつかの回想で、そんなことを言ってた人もいたっけ。
あらから・・・今。
『ふざけんな、調子に乗ってんじゃあないよ(笑)』
そういう言葉だって上手く言えば、いい風に、自分の思うとおりに伝わる。
笑う声が返ってくるのが、その証拠で。
いつかの回想から何年か・・・今になってようやく動けたことを、
その言葉を残した本人は、きっと見えない所であきれて笑ってるんだと思います。
音楽は国境を越える。
あきれ笑いだって・・・海を越えるんです。
いろんな人にありがとう。


』そんなメールを、先頭を歩いていた後輩さんに送る。






