メトホルミンの作用機序って? その1

メトホルミンの作用機序って? その2

メトホルミンの作用機序って? その3 の続きである。

 

メトホルミンは肝臓での糖新生を抑制することは知られていたのだが、

その作用にAMPKの活性化が必要なのか不要なのかが議論になっていた。

論文⑤では、AMPKとは独立して作用することを示した。

 

今回は実際にグルカゴン刺激による糖新生をメトホルミンが抑制し、

その作用にはAMPKの活性化は不要であること、

グルカゴン誘導性cAMP(サイクリックAMP)産生が

減少することによることを示した論文を紹介する。

 

論文⑥

Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP

Nature. 2013 Feb 14;494(7436):256-60. doi: 10.1038/nature11808.

 

 

メトホルミンと、同じくビグアナイドであるフェンホルミンが、

初代肝細胞でのグルカゴン誘導性cAMP増加を抑制しうることを示したのが

fig1c, dである。

cAMPによってPKA(プロテインキナーゼA)が活性化されるが、

フェンホルミンはグルカゴン刺激によるPKA活性化を抑制した(fig1e)。

また、PKAによってリン酸化される標的たんぱく質のリン酸化は、

フェンホルミンによって抑制された(fig1f)。

 

ビグアナイドの作用にcAMPレベルの低下が重要であるならば、

cAMP類似物質を投与した細胞ではビグアナイドの作用は減弱すると考えられる。

 

 

初代肝細胞はグルカゴンでグルコース産生が誘導されるが、

それはメトホルミンによって阻害される(fig2c薄いグレーのバー)。

cAMP類似物質である8Br-cAMP-AMによってもグルコース産生が誘導されるが、

それはメトホルミンによって阻害されなかった(fig2c濃いグレーのバー)。

したがって、メトホルミンの作用は、

グルカゴン刺激からPKA活性化までの間のステップであることが示された。

 

…って、あれれ?

 

論文⑤では、同じくcAMP類似物質のBt2-cAMPが誘導するグルコース産生を

メトホルミンは阻害することができた。

ところが、今回の論文⑥では8Br-cAMPS-AMが誘導する

グルコース産生をメトホルミンは阻害することができなかった。

これはどういうことだろう?

同じcAMP類似物質ではあるけれど、

なにか性質の違いがあるのだろうか。

もしくは、使用濃度や培養時間などの違いによるのか。

 

論文で言及されているかと思って読んだけれど、

ただ単に「注目すべきは、高用量のメトホルミンは8Br-cAMPS-AMによるグルコース産生も抑制する」と述べているだけ。

つまり、過去の報告は高用量のメトホルミンによる効果を見ているのだと言いたげだけれど、

論文⑤では250µMのメトホルミンがBt2-cAMPによるグルコース産生を抑制できてるんだよね。

大きな疑問が残ったままとなるが、

ここは著者らの主張通り、cAMP類似物質でPKAを強制的に活性化させると、

メトホルミンの作用は失われる、とするしかない。

 

 

 

fig3bは、AMPKを欠失させた肝細胞(青三角)でも、

コントロールの細胞(赤丸)と同じようにグルカゴン刺激でcAMPが増加し、

その増加はフェンホルミンによって抑制されることを示している。

 

では、グルカゴンによるcAMP増加がフェンホルミンによって低下するのは、

cAMPの分解が促進されるからなのか、

それとも、cAMPの産生が抑制されるからなのだろうか?

 

cAMPは、cAMPホスホジエステラーゼ(PDE)によって分解される。

もし、フェンホルミンがPDE活性を上昇させることで

cAMPの低下をもたらしているならば、

PDE阻害剤の存在下ではフェンホルミンの作用は消失すると考えられる。

 

グルカゴン刺激によってcAMPは増加し、

フェンホルミンによって減少する(fig3c 赤線)。

グルカゴン+PDE阻害剤ではcAMPの分解が抑えられるために、

よりcAMPの増加が見られる(fig3c 青線)が、

フェンホルミンによってcAMPはやはり減少した。

したがって、フェンホルミンは

cAMPの分解を促進するわけではないことが示された。

 

グルカゴンが受容体に結合すると、

そのシグナルはcAMPを産生する酵素である

アデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する。

fig3dは、AC活性が、AMP濃度依存的に阻害されることを示している。

 

つまり、メトホルミンやフェンホルミンといったビグアナイド類は、

細胞内のAMP量を増加させることにより、

直接的にACを阻害することで

グルカゴンが誘導する糖新生を抑制することが示された。

 

 

培養細胞で見られたことを、実際に生体でも確認した。

マウスにメトホルミンを投与し、

グルカゴン注入による血糖値上昇への効果を見たのがfig4aである。

グルカゴンによって血糖値は上昇するが(赤線)、

メトホルミン事前投与により血糖値上昇は抑制された(青線)。

 

メトホルミンはグルカゴンによる肝臓内cAMP量増加を抑制し(fig4b)、

PKA活性も抑制した(fig4c)。

 

メトホルミンを投与したマウスの肝臓ではAMPが増加し(fig4d)、

cAMPが減少し(fig4e)、

AMP量の増加とcAMP量の減少はよく相関していた(fig4f)。

 

最後に、高脂肪食を10週間与えて高血糖状態にさせたマウスを用いて、

メトホルミンの効果を調べた。

メトホルミンの投与は肝臓のAMPKを活性化し(fig4g)、

PKAの基質たんぱく質のリン酸化を抑制した(fig4h, i)。

 

AMPはアデニル酸シクラーゼ活性を阻害することは、古くから知られていた。

今回の論文では、メトホルミン(を含むビグアナイド類)が

細胞内AMP量を増加させることによって、

直接アデニル酸シクラーゼの活性を阻害することで、

グルカゴン誘導性の肝グルコース産生を抑制することを示したのだった。

 

今回の論文についてまとめた図を描いてみた。

 

 

まずは、グルカゴンの作用について説明しておこう。

肝細胞の表面にあるグルカゴン受容体にグルカゴンが結合すると、

三量体Gタンパク質のαサブユニットに結合していたGDPがGTPになり活性化、

アデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する。

その結果、細胞内のcAMP濃度が上昇し、PKAが活性化される。

PKAは、

・ホスホリラーゼキナーゼを活性化することで

グリコーゲンホスホリラーゼを活性化、グリコーゲンの分解を促進。

・グリコーゲン合成酵素を阻害することで、グリコーゲンの合成を抑制。

・転写因子CREBを活性化し、糖新生関連遺伝子の発現を誘導する。

・PFK-1/FBPase-2を活性化することでフルクトース2,6-ビスリン酸が減少、

フルクトース1,6-ビスホスファターゼが活性化して糖新生が亢進。

注)フルクトース1,6-ビスホスファターゼの反応については、

メトホルミンの作用機序って? その1の糖新生の図を参照のこと

 

このような複数の作用により、グルカゴンは血糖値を上昇させる。

 

そして、メトホルミン(を含むビグアナイド類)は、

ミトコンドリア電子伝達系の複合体Iを阻害することにより、

細胞内のAMP/ATP比を上昇させ、

増加したAMPはアデニル酸シクラーゼを阻害する。

その結果、グルカゴンのシグナルが阻害され、

グルコース産生が抑制されることとなる。

 

また、その3で書いたように、

AMPは直接フルクトース1,6-ビスホスファターゼを

阻害することは古くから知られている。

 

ということで、メトホルミンによる糖新生抑制作用には

AMPKの活性化は必要ないことが確実となった。

これにて一件落着

…かと思いきや。

いやいや、別の機構もあるよ〜んという論文が出たのだった。

 

次回に続く。

 

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えっちらおっちらとメトホルミンのことを調べていたら、

メディカルトリビューンでこんな記事を見た。

糖尿病の新規薬imeglimin、日本人に適する(読むには登録が必要)

新しい薬のことも気になるけど、それよりも!

「ミトコンドリアをターゲットとするところはメトホルミンと似ているが、imegliminは複合体Iを阻害するものの、メトホルミンと異なり複合体Ⅲには関与しない

あーれー!

メトホルミンは複合体IIIにも影響するのー!?

今まで読んできた論文では、複合体Iのことしか言及してなかったんだけど…?

検索すれば論文が出てくるんだろうか。

また読むべき論文が増えるってこと?

うわーん、シリーズが終わらないよぉー(泣)