メトホルミンの作用機序って? その1の続きである。
メトホルミンは、ミトコンドリア電子伝達系の複合体Iを阻害することが示されたが、
糖新生を抑制する詳しいメカニズムは不明なままだった。
次に注目を集めたのが、メトホルミンがAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を
活性化するという論文である。
論文③
Role of AMP-activated protein kinase in mechanism of metformin action
J. Clin. Invest. 108:1167–1174 (2001). DOI:10.1172/JCI200113505.
この論文では、ラット及びヒトの初代培養肝細胞を用いて、
メトホルミンがAMPKを活性化することを確認した。
その結果、脂質代謝や糖新生に対して作用することが示されたのだが、
ここでは脂質代謝はひとまず置いといて、糖新生のみ注目する。
24時間絶食させたラットから肝細胞を採取し、
グルカゴン刺激による糖新生を調べたのがfig.3Cである。
四角はコントロール、ひし形はメトホルミン、丸はメトホルミン+AMPK阻害剤。
グルカゴンによってグルコースの産生が誘導される(四角)。
メトホルミンは糖新生を抑制した(ひし形)。
その効果はAMPKを阻害する薬剤の存在下では失われた(丸)。
この結果から、メトホルミンによる糖新生抑制効果は
AMPKを介することが示唆された。
メトホルミンが電子伝達系を阻害すると、
細胞内のADP(AMP)/ATP比が上昇すると考えられる。
そのため、増加したAMPによってAMPKが活性化すると考えるのは、
自然な流れであり、受け入れられやすい仮説である。
論文④
The Kinase LKB1 Mediates Glucose Homeostasis in Liver and Therapeutic Effects of Metformin
Science. 2005 Dec 9;310(5754):1642-6. Epub 2005 Nov 24.
この論文では、まず、肝臓においてLKB1というキナーゼが
AMPKの活性化に必要であること、
肝臓LKB1を欠失させたマウスでは、重篤な高血糖を呈することを示した。
肝LKB1欠失マウスでは、糖新生に関与する遺伝子の発現が増加していた。
続く実験で、
LKB1はAMPKを活性化し、
AMPKはTORC2(transducer of regulated CREB activity 2)を抑制、
その結果、PGC1α(peroxisome proliferator-activated receptor-γ coactivator 1α)を抑制することで、糖新生を抑制することを示した。
fig.5Aは、野生型(+/+)マウスにメトホルミンを投与するとAMPKが活性化するが、
LBK1欠損(-/-)マウスでは
メトホルミンによるAMPK活性化が見られないことを示している。
fig.5B上図は、野生型マウスに高脂肪食を与えて高血糖を誘導し、
メトホルミン投与によって空腹時血糖値が低下することを示している。
また下図は、糖尿病のモデルマウスob/obマウスにおいても
メトホルミン投与によって血糖値が低下することを示している。
それに対し、中図は、LKB1欠損マウスでは
メトホルミン投与による血糖値低下作用が消失することを示している。
ということで、メトホルミンの糖新生抑制作用は、
LBK1からAMPKを介し、TORC2およびPGC1αが抑制されることによって
効果を発揮することが示されたのだった。
論文③と④をまとめると、こうなる。
メトホルミンが電子伝達系の複合体Iを阻害することにより、ATP産生が低下。
その結果、細胞内のADP(AMP)/ATP比が上昇。
AMPKのγサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わることで、
LBK1との親和性が高くなり、リン酸化されてAMPKが活性化。
AMPKはTORC2を抑制することで、結果的に糖新生を抑制する。
*AMPKの活性化については、下記のブログが詳しい
AMPK:エネルギー恒常性を維持する、栄養素とエネルギーのセンサー
しかしながら、この仮説に待ったをかける論文が複数出てきたのだった。
次回に続く。