メトホルミンのことを調べていて、

自分の中でまとまったら記事にしようと思っていた。

当初は簡単に考えていたのだが、

調べれば調べるほど、ことはそう単純じゃないと気づいてしまった。

なので、自分のためにも、理解できた分ずつまとめていこうと思う。

まだ進行中のことなので、

あとから間違いに気づいたり、補足をしたくなるかもしれない。

その点を考慮しながら読んでほしい。

 

メトホルミンの元となったのは、

中世の時代から民間医療で利用されてきた

フレンチライラック(ガレガソウ)である。

その有効成分が抽出され、それがグアニジンと呼ばれる物質だった。

そこから開発されたのがジメチルビグアナイド、

つまりメトホルミンである。

化学物質としてのメトホルミンについては、

しらねのぞるばさんがブログで解説されている。

 

このような歴史があるメトホルミンなので、

なんで効くのか分からんけど糖尿病治療に効果的だということで、

世界中で使われてきたのだった。

メトホルミンはどのような作用機序で血糖降下効果をもたらすのか?

その長年の謎が解明され始めたのは、2000年のJBCの論文からのようだ。

 

論文①

Dimethylbiguanide Inhibits Cell Respiration via an Indirect Effect Targeted on the Respiratory Chain Complex I

J Biol Chem. 2000 Jan 7;275(1):223-8.

 

この論文では、ラットから単離した肝細胞、

および肝臓から単離したミトコンドリアを使って実験している。

 

肝細胞を0.1mM〜10mMのメトホルミン存在下で培養し酸素消費量を調べたところ、

濃度依存的に酸素消費量が低下することが分かった。

 

ミトコンドリア電子伝達系のどの部分を阻害しているのか調べたところ、

メトホルミンは複合体Iを阻害するらしいことが示唆された。

その結果、NADH酸化の減少、

ミトコンドリア内膜のプロトン勾配の減少がみられた。

 

この論文の何ヶ月か後、その説をサポートする論文が発表された。

 

論文②

Evidence that metformin exerts its anti-diabetic effects through inhibition of complex 1 of the mitochondrial respiratory chain

Biochem J. 2000 Jun 15;348 Pt 3:607-14.

 

ラット肝がん細胞株をメトホルミン存在下で培養し、ミトコンドリア呼吸を調べた。

50μMで24時間培養後では13%の阻害、

60時間後では30%の阻害が見られた。

100μMで24時間培養後では26%、

60時間後では37%の阻害が見られた。

 

メトホルミンは複合体Iを阻害していることが示唆された。

 

ラットから単離した肝細胞に、乳酸+ピルビン酸+グルカゴンを添加して培養し、

メトホルミンによる糖新生への影響を調べた。

2mMで150分培養後、糖新生は75%抑制され、

5mMで150分後では、糖新生はほぼ完全に抑制された。

 

体重が250 - 300gのラットに対し、50mgおよび150mgのメトホルミンを

1日1回、5日間経口投与したのちに肝臓を採取、代謝物を調べた。

 


2-および3-ホスホグリセリン酸

ホスホエノールピルビン酸の濃度上昇、

 

グルコース6-リン酸

フルクトース6-リン酸の濃度低下、

 

L-乳酸/ピルビン酸の比率が上昇、

 

計算されたATP/ADP比は大幅な低下を示した。

 

以上、初期の論文2つの結果を紹介した。

しかし、文章で書いても分かりにくい。

わたし自身、分かりにくかった。

なので、図を描いた。

 

 

小さくて見づらいかもしれない。

 

まとめたのは、細胞内におけるグルコース(ブドウ糖)の代謝経路の略図。

食べ物に含まれる糖質はグルコースなどの単糖にまで分解され、小腸で吸収される。

血液中のグルコースは細胞に取り込まれ、エネルギー源となる。

エネルギー源となるというのは、ATPを作る材料となるということ。

ATPとは、細胞が生きるために必要なもので、エネルギー通貨と呼ばれている。

人の生活で例えると、電池のようなものと考えると分かりやすい。

 

まずは細胞質で解糖系と呼ばれる一連の反応によって、ピルビン酸が作られる。

ピルビン酸はミトコンドリアの中に運ばれ、アセチルCoAとなる。

アセチルCoAはクエン酸回路に入る。

この回路で、NADHとH+(プロトン; 水素イオン)を作り出す。

このNADHとH+を利用して、

電子伝達系(または呼吸鎖)と呼ばれる一連の複合体(I〜IV)に電子が受け渡され、

最終的にたくさんのATPが作られる。

(NADHのほか、FADHも利用される)

 

今回紹介した2つの論文では、

メトホルミンは電子伝達系の複合体Iを阻害することが示唆された。

では、複合体Iが阻害されたら、細胞内では何が起きるのか?

 

電子伝達系によってたくさん作られるはずのATPが少なくなってしまうだろう。

細胞はそれでは困るので、

効率は悪いが解糖系のみでATPを作り出そうとするだろう。

(解糖系ではグルコース1分子につき2つのATPが得られる)

このとき、NAD+が消費されるので、

それを補わないと解糖系の反応が止まってしまう。

なので、ピルビン酸はミトコンドリアに運ばれずに、細胞質で乳酸に変換される。

このとき、NAD+が作られるので、これで解糖系を続けることができる。

 

骨格筋などの細胞で作られた乳酸は血中に放出され、肝臓で回収される。

本来ならば、肝臓で乳酸は糖新生によりグルコースに戻される。

以下に、解糖系と糖新生を簡単にまとめた。

 

 

論文②では、

肝細胞においてメトホルミンは乳酸からの糖新生を抑制することが示された。

 

また、論文②のメトホルミン投与したラットの肝臓における代謝物で、

変化が見られたものを図中の赤と青の矢印で示した。

 

ということで、これら2つの論文から、

メトホルミンはミトコンドリア電子伝達系の複合体Iを阻害するらしいこと、

糖新生を抑制することが示されたのだった。

 

この後、次々と新たな研究が報告されていく。

それについては、またそのうちまとめたいと思っているのだが。

 

さて、何回シリーズになるのか、そもそも完結できるのか。

気長に進めていこうと思う。