アメリカの通信機器メーカー大手のモトローラが1980年代に開発したもので、6σ(シックスシグマ)という概念がある。σとは、統計学で標準偏差のことで、偏差値の計算に使われる。6σというと、その事象が起こりうる確率が100万回に3、4回ということで、品質管理上、作られた商品(またはサービス)のうち欠陥品の確立をそれ以下にする、という目的で開発された。この6σのコンセプトを開発した人間が、たまたま柔道家で、6σのプロジェクトの中心人物に対しては、黒帯の称号が授与される。
簡単に言うと、エラーを限りなくゼロに近い確立まで持っていきましょう、ということで、例えば飛行機が落ちる確率というのは、6σをさらに下回っている。GEが積極的に改良を重ね、ほかにも日本のソニーや東芝も6σを採用している。これらの超有名企業が採用してるくらいだから、さぞかし難しいことをやっているんだろう、と思うでしょう?しかし、インドのムンバイにも6σを達成している人々(dabbawallahs)がいるんです。しかも、彼らは字の読み書きもできません。
彼らが何をしているのかというと、弁当箱を運んでいるんです。ムンバイを縦断する列車の通勤ラッシュは、東京の比ではありません。電車の外にぶら下がったりで、かばんを持って入ろうものなら、自分は出れても、かばんは車外へ出てこない、という状態な程混んでいます。だから、通勤する人々は手ぶらで通勤するわけですが、たいていの既婚者(男)は奥さんに毎朝弁当を作ってもらうわけです。そこで、字の書けない彼らが、駅で弁当を受け取り、通勤客の会社まで届ける、というサービスを提供しています。毎日、約20万個と言われる弁当を運び、さらにモンスーンの季節であっても、彼らは間違えません。その間違えの頻度が6σを達成しているんです。その正確さには、イギリスのチャールズ皇太子が着目し、インドに来た際、わざわざ彼らを訪問したということもありました。
登記された会社でもなければ、それ以前に字の読み書きができない貧しい彼らが、何故そこまで正確にできるのでしょうか?それは、プレッシャーです。約5,000人と言われる仲間うちでの連携プレーで成り立っている仕事であって、自分がミスをすれば、クレームが発生し、その連携から外されて村八分になってしまう可能性があるからです。字の読み書きができない人々なので、一度職を失ってしまえば、生死に関わってきます。
その恐怖感がいいか悪いかは別として、ここから言えることは、必ずしも先進国資本の多国籍企業が優れているとは限らない、ということです。多国籍企業は、収益を上げるために、成功事例を分析し、体系化することによって、事業の規模を大きくし、収益を拡大させようとする。しかし、それぞれの国の事情は違うわけで、必ずしも一つの国で成功したものが、他の国で受け入れられるわけではありません。ましてや、ビジネスの環境や文化が変われば、それに対応したビジネスのやり方が求められます。それは、トヨタが各現場で従業員にKaizenをさせたように、その地域に精通した人間でなければ分からない事情があり、それがビジネスをする上で決定的な要素になることもあります。さらにインフラが整い中流階級が大多数の先進国の成功事例からは考えられないやり方のほうが、コミュニティの調和を保ち、ビジネスの持続性という意味では、安定的な収益が上げられることも考えられます。バングラデシュのグラミンバンクが行ったマイクロファイナンスは有名で典型的な例です。
過去に先進国資本の多国籍企業が、生産拠点として、後進国の安価な労働力を利用し、メディアに批判されないように、社会福祉事業にも莫大な資金を投入してきた。が、本来の事業において、現地での雇用の創出は言うまでもなく、むしろ現地の消費者に着目し、土着化したやり方で、製品・サービスを販売することで、継続的な収益を上げ、人々の生活を改善することは可能であると思います。