昨日、一昨日と、世界的な金融危機への対応を協議する金融サミット(G20)が、ワシントンで開催され、我が国からも、麻生総理や中川・財務金融相が参加しました。本日(16日)の早朝、G20での一連の協議を終えた麻生総理のワシントンでの記者会見の様子をテレビ中継で見ましたが、麻生総理の記者発表と記者との応答振りが、得意満面の表情で行われていたのが印象的でした。
確かに、G20では、我が国は、IMFへの各国の出資(外貨準備に困った国に対する融資の原資となります。)総額を現在の約32兆円から倍増させるための増資を提案し、その増資が実現するまでの措置として、日本の外貨準備から最大10兆円をIMFに融資する意向を表明しました。これだけの大金を融通しようと言うのですから、麻生総理が得意満面の表情になったとしても、不思議ではありません。
しかし、我が国のこの提案も、今回の世界的金融危機を根本的に解決・克服するものではありません。今回の世界的金融危機の中で対外的支払に困った新興国や中小国に対して、緊急的な融資を行うための融資枠の拡大をするものでしかありません。今回の世界的金融危機を根元から解決・克服するためには、米国がその震源となったいわゆる「サブプライム・ローン問題」に対してどう対処するのかが本当の課題です。
「サブプライム・ローン問題」とは、米国の超低金利政策による資金のだぶつきから低所得者向けに提供された住宅ローン(サブプライム・ローン)に端を発した問題です。住宅バブル(価格の上昇)で担保余力が出てくると、それに伴って更に借入れが拡大でき、利払いと消費が両立できたのですが、住宅バブルが崩壊してくると、借入者はたちまち破綻してしまいました。問題を大きくしたのは、そのような住宅ローンを証券化することを繰り返して、世界中に投資リスクを拡散してしまっていたことです。
実は、「バブルが形成されては崩壊する」というパターンは、これまで何回も繰り返されてきています。対象となる商品が、「サブプライム・ローン関連証券」の前には、商業用不動産であったり、住宅用不動産であったり、ジャンク・ボンドであったりしました。しかし、「サブプライム・ローン関連証券」は、金融のグローバリゼイションによって、被害の規模も大きく(損失の予想額は130兆円と言われています。)、被害の範囲も世界中に及んでしまったのです。
この「サブプライム・ローン問題」に対して、先進各国は、金融機関に対する公的資金の注入によって問題の解決を図ろうとしています。その規模は、ロイターの集計によれば、米国25兆円、英国9兆円、ドイツ11,2兆円、フランス5,6兆円、合計で60兆円に上っています。金融機関を破綻させてしまうには、その影響が大き過ぎるということからですが、「公的資金の注入」の他に、問題を解決する手段はないのでしょうか。
我が国でも、15年前に、住宅金融専門会社(いわゆる「住専」)の破綻を巡って、「公的資金の注入」の是非が問われたことがありました。時の野党は「公的資金の注入」に強く反対しましたが、結局、関係法律が成立し公的資金の注入が行われました。その後、金融機関への公的資金の注入について色々な仕組みが作られましたが、「結果よければ全て良し」ということで、「公的資金の注入」の是非について深く検討されることはありませんでした。
金融機関への「公的資金の注入」は、突き詰めて言えば、「金融機関の損失を納税者に押し付ける」ことです。「サブプライム・ローン問題」について言えば、「ウォール街が発生させた損失を納税者に押し付ける」ということでしょう。その一方で、ウォール街では、サブプライム・ローン問題でシティグループ、メリルリンチに大損をさせたCEO二人の退職金は2億ドル、リーマンブラダーズを破綻させた会長の昨年のボーナスは4千万ドルだったそうです。
現在発生している金融危機を凌いでいくためには、「公的資金の注入」の他に良い考えがあるわけではありません。しかし、今後このようなことを繰り返させないためには、どうすればよいのでしょうか。金融機関や金融市場に対して適切な規制を行うことも大事だと思いますが、バブルを生み出す体質(借金に依存し、浪費を奨励する経済体質)を見直すことも大切なのではないでしょうか。