ピラティスでマシンを使うメリットと、その本当の意味
このブログは、「正しいピラティス」を伝えるためのものではありません。
私が20年以上ピラティスを学び、指導する中で見えてきたこと、感じてきたことを、一人の指導者として綴っています。
身体に絶対の正解はありません。だからこそ、問い続け、学び続けることを大切にしています。
ピラティスというと、最近では「マシンピラティス」という言葉を耳にすることが増えました。
リフォーマー、キャデラック、チェア、ラダーバレル、スパインコレクター。
さまざまな器具を使って動く姿を見ると、少し特別なトレーニングのように見えるかもしれません。
「マシンを使うと、早く身体が変わるのですか?」
「マットよりマシンの方が効果がありますか?」
「マシンがあるからピラティスなのですか?」
そんな質問をいただくことがあります。
もちろん、マシンを使うことには大きなメリットがあります。
けれど、私はマシンそのものが身体を変えてくれるとは思っていません。
大切なのは、マシンを使うことで、今まで気づけなかった身体の感覚に出会えることです。
ピラティスのマシンは、単なる筋力トレーニングの器具ではありません。
身体を鍛えるためだけのものではなく、身体の使い方を学ぶための道具です。
人の身体には、それぞれ使い方の癖があります。
右に体重をかけやすい人。
肩に力が入りやすい人。
腰で頑張ってしまう人。
お腹を使っているつもりでも、実は首や背中を固めている人。
脚を動かす時に、股関節ではなく腰を動かしてしまう人。
これらは、本人が悪いわけではありません。
長年の生活習慣、姿勢、仕事、過去のケガ、運動経験、考え方、緊張しやすさなど、さまざまな要素が身体の使い方に影響しています。
そして多くの場合、自分の癖は自分では気づきにくいものです。
「まっすぐ立っているつもり」
「力を抜いているつもり」
「お腹を使っているつもり」
でも、実際の身体は違う反応をしていることがあります。
ピラティスでマシンを使う意味は、そこにあります。
マシンは、身体の癖を責めるためのものではありません。
今の自分の身体が、どのように動こうとしているのかを知るためのものです。
例えば、マットの上で脚を動かす時、腰が反ってしまう方がいます。
その方に「腰を反らないようにしてください」と伝えても、なかなかうまくいかないことがあります。
なぜなら、その人にとっては腰を使う動きが当たり前になっているからです。
頭では理解していても、身体はいつもの方法を選んでしまいます。
そこでマシンを使います。
スプリングが脚の重さを少し助けてくれることで、腰ではなく股関節から脚を使う感覚を見つけやすくなります。
また、スプリングの抵抗によって、ただ力を抜くのではなく、必要な筋肉を適切に働かせる感覚も学べます。
つまりマシンは、身体に対してこう教えてくれるのです。
「そこまで頑張らなくても大丈夫ですよ」
「こちらを使うと、もっと楽に動けますよ」
「今、左右で少し違いがありますよ」
これは、言葉だけでは伝えにくい感覚です。
ピラティスのマシンは、身体に対するフィードバックを与えてくれる存在なのです。
マシンの大きな特徴は、サポートにもなり、抵抗にもなることです。
ここがとても大切です。
一般的にトレーニング器具というと、重さを増やして筋肉を鍛えるイメージがあります。
もちろんピラティスのマシンでも筋力は使います。
しかし、ピラティスのマシンの面白さは、それだけではありません。
スプリングは、動きを助けることもできます。
反対に、動きを難しくすることもできます。
身体を支えることもできます。
不安定さを作り出すこともできます。
つまり、同じマシンでも、その方の身体の状態や目的によって、使い方がまったく変わるのです。
身体がまだ動きに慣れていない方には、マシンが支えになります。
必要以上に力が入りやすい方には、余分な力を抜く手助けになります。
ある程度動ける方には、より細かなコントロールを学ぶ課題になります。
だからマシンは、初心者にも、経験者にも、それぞれの意味を持ちます。
リフォーマーは、身体の中心と手足のつながりを学びやすいマシンです。
寝た姿勢で動くことができるため、
立っている時よりも身体の余分な緊張に気づきやすくなります。
足をフットバーに置いて押す動きでは、脚だけでなく、骨盤、背骨、肋骨、頭の位置まで関係していることがわかります。
一見、脚の運動に見えても、実は全身のつながりを学んでいるのです。
キャデラックは、身体を支えながら動きを引き出すことができます。
スプリングやバーを使うことで、腕や脚をただ動かすのではなく、背骨や体幹との関係を感じやすくなります。
チェアは、小さな面の上で動くため、身体の安定性やバランスがはっきり現れます。
ごまかしがききにくい分、自分の身体の使い方が見えやすくなります。
ラダーバレルやスパインコレクターは、背骨や胸郭の動きを学ぶのにとても役立ちます。
特に現代の生活では、背中が丸くなったり、胸郭が固くなったり、呼吸が浅くなったりしやすいものです。
そのような身体に対して、無理に伸ばすのではなく、器具の形を利用しながら、背骨の動きを少しずつ感じていくことができます。
それぞれのマシンには、それぞれの役割があります。
だから私は、「このマシンが一番良い」とは考えていません。
大切なのは、その方の身体に今、何が必要なのかを見極めることです。
ピラティスでマシンを使うメリットは、単にエクササイズの種類が増えることではありません。
身体を見る視点が増えることです。
マットでは見えにくいことが、リフォーマーでは見えることがあります。
リフォーマーではわからなかったことが、チェアで明確になることがあります。
チェアで難しかったことが、キャデラックでは安心して学べることもあります。
同じ「お腹を使う」というテーマでも、マシンが変わると、身体の感じ方が変わります。
同じ「背骨を動かす」というテーマでも、姿勢や器具が変わることで、まったく違う発見があります。
人の身体は一方向から見ただけではわかりません。
だからこそ、さまざまなマシンを使うことで、多角的に身体を見ていくことができます。
これは指導者にとっても、とても大切なことです。
お客様にとっても、自分の身体を一つの思い込みで判断しなくてよくなります。
「私は身体が硬い」
「私は腹筋が弱い」
「私は姿勢が悪い」
そう決めつける前に、違う環境で動いてみると、まったく違う反応が出ることがあります。
マシンは、その可能性を見せてくれるのです。
また、マシンを使うことで安全に動きを学びやすくなることも、大きなメリットです。
運動が苦手な方や、久しぶりに身体を動かす方にとって、自分の身体を支えながら動くことは簡単ではありません。
マットの上では、すべてを自分の力でコントロールしなければならない場面もあります。
しかしマシンでは、身体を支えたり、動きを小さくしたり、負荷を調整したりすることができます。
そのため、無理に頑張るのではなく、その人に合った段階で動きを学ぶことができます。
ピラティスは、きついことを我慢するためのものではありません。
自分の身体に合った方法で、少しずつ身体の可能性を広げていくものです。
その意味で、マシンはとても優れた学習環境を作ってくれます。
そしてもう一つ大切なのは、マシンで学んだ感覚は、マシンの上だけで終わらないということです。
レッスンで感じた骨盤の安定。
背骨の伸び。
足裏で床を押す感覚。
肩の力を抜いて腕を動かす感覚。
呼吸の広がり。
それらは、日常生活につながっていきます。
歩く時。
立ち上がる時。
階段を上る時。
荷物を持つ時。
長時間座っている時。
ピラティスの目的は、レッスン中にきれいな形を作ることだけではありません。
日常の身体の使い方が少しずつ変わっていくこと。
これが本当の意味での変化だと思います。
マシンは、その変化のきっかけを作ってくれるものです。
ジョセフ・ピラティスは、なぜこれほど多くの器具を考案したのでしょうか。
私は、そこには「人の身体は一人ひとり違う」という前提があったのではないかと思います。
同じエクササイズでも、ある人には難しく、ある人には簡単に感じることがあります。
同じ説明をしても、伝わる人と伝わらない人がいます。
だからこそ、身体が理解しやすいように、さまざまな道具が必要だったのではないでしょうか。
マシンは、身体を型にはめるものではありません。
むしろ、その人の身体に合わせて、必要な学び方を与えてくれるものです。
マシンピラティスが流行している今だからこそ、私は改めて伝えたいことがあります。
マシンがあるから良いレッスンになるわけではありません。
難しいエクササイズをすることが、良いピラティスでもありません。
大切なのは、そのマシンを通して、何を学ぶかです。
身体のどこに気づくのか。
どの動きが変わるのか。
どの感覚を日常につなげるのか。
そこが見えていなければ、マシンはただの道具で終わってしまいます。
反対に、マシンの意味を理解して使えば、身体はとても多くのことを教えてくれます。
ピラティスのマシンは、身体を変える魔法の道具ではありません。
でも、自分の身体を知るための大切な案内役にはなってくれます。
力を入れることだけではなく、力を抜くこと。
頑張ることだけではなく、感じること。
形を真似ることだけではなく、自分の身体の中で何が起きているのかを知ること。
その積み重ねが、身体を少しずつ変えていきます。
だから私は、マシンを使うことを大切にしています。
マシンは主役ではありません。
主役は、いつもお客様自身の身体です。
マシンは、その身体と対話するためのパートナーです。
身体に絶対の正解はありません。
今日の内容も、現場で学び続ける私自身の一つの視点です。
「ピラティスは、するものではなく、生きるもの。」
「ピラティスは、動きを学ぶことではない。身体との対話を育てることである。」






