マジすか学園3☆#9ー7☆
「何をそんなに慌てている?」
学ランが、線路を渡り、悪魔のような少女、市川ミオリの横を走り抜けようとしたとき、暗く低い声が響いた。
ミオリから発せられた言葉だと気づき、外見との違いに、一瞬、戸惑う学ラン。
しかしー
「ちっ!矢場久根には関係ねーんだよ!忙しいから、またな!」
そう言って、学ランは勢いよく走り去っていった。
「学ランか…」
ミオリが低い声で呟く。
「マジ女は血の饗宴のいわばメインディッシュ…、いまはまだ…」
マジ女に協力する者たちを倒し、近隣の高校を支配下に置き、マジ女包囲網を築き上げ、最終的にマジ女を叩き潰すーそれが、矢場久根のシナリオ。
市川ミオリが描いた地獄の絵図。
「…ただ、駆けずり回っていればいい、その“とき”が来るまで…」
一方、
「姉貴ー!いましたか?」
「いや、いないねぇ…、なんだかもう、東京にはいないような気がしてきたよ」
歌舞伎シスターズの二人も、前田の行方を必死に探し続けていた。
「前田の姉貴が退学届を出して行方をくらますなんて…、きっと、何か大変なことが起こってるに決まってますよ!」
「そんなことはわかってんだよ!問題は、“何が”起こってるかってことだ」
「ですよね…すいません…、今度は、こっち行ってみましょうか?」
小歌舞伎が、走って来た方角と反対のほうを指差す。
「いや、待て!」
「どうしました?」
「あのひとなら、何かわかるかもしれない」
突然、通りに飛び出し、前から走ってくるスクーターの男性をひき止める大歌舞伎。無理やりにハンドルを奪い取る。
そして、小歌舞伎を呼ぶ。
「早く乗れ!」
「ど…、どこ行くんです?」
小歌舞伎が慌てふためいて後部席に乗るのと同時に、スクーターはふたりの歌舞伎風の制服をなびかせ、スタートを切った。一気に加速する。向かうはー
「六本木だ!」
大阪ー
“エリア”内にあるボクシングジムー
経営難により、いまは運営されていない。設備などは、そのまま残されていた。とあるフロント企業がすぐに買い取ったからである。裏社会と親交が深いディーヴァ。いまでは、ディーヴァ十二将のひとり、城(じょう)エリコの率いる隊員が集う支部となっていた。
現在、ファーストフード店を襲撃し、前田とアヤメを拉致した三十名ほどの少女が、広いフロアを占めている。
「城さんは、まだか?」「もうすぐ来るやろ」「こいつら、殴りたりんなぁ」「やめ!勝手なことしたら、城さんにぶっとばされるで」「城さん、活きのいい獲物が好きやからなぁ」
前田とアヤメの二人は、両腕を高く縛り上げられ、近くにあるサンドバッグさながら、無残にも吊るされていた。
二人ともうなだれていて、意識を失っているようだ。
フロアの中央には、四角いリングが存在感を示している。すべてのロープには有棘鉄線が巻かれており、周りは高い金網で囲まれていた。まるで鋼鉄の檻。
「城さん、来るまでに、少しくらいなら、ええやろ…、こいつに殴られた傷、倍にして返してやらんと、気ぃすまんわ!」
抑えが効かず、前田のまえに立つ少女。少しくらいならと、誰も止める者はいなかった。
「かわいい顔しとるなぁ…、いまからその顔、ズタズタにしたるわ!」
少女の右手のナイフが、鈍く輝いた。
マジすか学園3☆#9ー6☆
大阪ー
前田のさびしそうな表情から、たたかう者の悲哀をアヤメは感じた。
「協力するよ、わたしも…、ディーヴァには恨みがあってね…、止めても無駄だよ。もう、あいつらには仲間だって認識されてるだろうし…」
「アヤメ…」
「共同戦線ニャ」
「あなたも…、“バカ”なんだね」
「世界で二番目のね。世界一の称号は譲るニャ…、大丈夫、わたし逃げ足は速いから」
「知ってるよ」
前田の笑顔を受け止め
アヤメは、地図を取り出し、テーブル上に広げ始めた。
“エリア”の地図。
アヤメが説明する。
“エリア”とは、ディーヴァが治める裏の勢力圏。そのなかでの多少の揉め事は、警察はほぼ関知しない。間違ってディーヴァ以外のヤンキーが入っていけば、すぐにディーヴァによって排除される。
ディーヴァに挑戦しようものなら、たちどころに叩き潰され、病院送りか行方不明。別名“ヤンキーの墓場”とも呼ばれている区域だ。
かなり広く、大阪中に分布している。この中のどこかに、ディーヴァ総帥がいることは間違いない。
話の途中、前田のケータイに登録されていない番号から、着信があった。そっとケータイを耳にあてる前田。
アヤメも耳をそばだてる。
『よう来たな…前田』
「ディーヴァの…総帥か」
直感で、前田は理解した。
『しっかりと、果たし状は届いたみたいやな』
“岸野リカ”という名の果たし状。
「酷いことを…」
『そっちから出向いてくるとはな…、こっちから全面戦争、仕掛ける予定やったんにな』
「そんなことはさせない…そのために来たんだ」
『ははは…、そうやな…、将軍全員倒せたら、会(お)うてやってもええわ…、ははははは!なかなかおもろい趣向やろ。まぁ、無理やろなぁ…、捕食する者とされる者…、その立場が入れ替わることはないんや…、生と死。それが自然の摂理や』
どこまでも挑発的で、上から見下ろす物言いだった。
前田は、ひとつ気になっていることを言葉にした。
「お前…、高橋みなみを知っているのか?」
『ここに来ればすべてわかる…、すべてな…、来れるもんなら、来てみろや…前田!ディーヴァ全勢力がお前を襲う…
さぁ…、遊戯(ゲーム)の“はじまり”や…』
ははははは…と、笑声を残し、通話は途切れた。
はっとする前田。
いち早く、不穏な空気に気づく。
「囲まれてる…」
ファーストフード店の入口と裏口に、ディーヴァの特攻服を着た隊員たちが、店内の様子をうかがっている。
GOサインが出たのか
隊員たちは、木刀や鉄パイプ片手に、一斉に店内に踏み込んできた。
一般客から、悲鳴があがる。学生や、通勤前の女性、サラリーマンに対しても、まったく容赦なく凶器をふるい暴れ始める。血を流し倒れていく人々。
これが、ディーヴァのやり方。
「あいつら…」
前田は駆け出していた。怒りに震える拳。
こんなはずでは、なかったのに…。
誰も、巻き込みたくは…。
それほど広くもない店内。
椅子やテーブルが散乱し、前田の動きは制限されていく。
次から次と侵入してくるディーヴァの隊員たち。破壊されるカウンター、窓ガラス、テーブル、そして、人、人、人。
前田の鋭い拳が、ディーヴァ隊員にきまる。
しかし、ひとり、ふたり倒しても、焼け石に水の状態。
乱戦のさなか
前田の背後から、振り下ろされる木刀。
「あぶない!」
身軽なアヤメが身を挺して庇う。
「アヤメ!」
倒れたアヤメを引きずり上げ、殴りつけるディーヴァの隊員たち。
「おら!おとなしくしろや!」「こいつが、どうなってもええんか?」
「やめろ!その子に手を出すな!」
気をとられた
前田も後ろから木刀で殴られ、倒れこむ。
「連れてけ!公開処刑や…」
十分後
警察車両が到着したときには、もう、ディーヴァの隊員はひとりもいなかった。それから、前田とアヤメの二人もー。
あとには、惨劇の現場だけが残っていた。
東京ー
「敦子ー!」
学ランのかすれた声が街中に響く。
喉がつぶれかけるくらい叫び続けていた。
胸騒ぎしかしない。
あたりを見渡すが、前田の姿はない。
疲労で足がもつれ
踏切の手前で、倒れこむ学ラン。
「ちくしょー!はぁ、はぁ、敦子…、どこ行っちまったんだよ…、勝手にいなくなっちまいやがって…、どんな理由があろうと、会ったら、絶対、一発ぶん殴ってやるからな…」
くやしそうに
アスファルトの砂を掴む学ラン。
先が見えない。
カンカンカン…
「ちっ!」
踏切までもが、行く手を阻む。
電車が通り過ぎるのが、いつもよりとても長く感じた。
ようやく、ゆっくりと踏切が上がる。
踏切の向こう側に突然、瞬間移動でもしたかのように、少女がひとり、立っていた。
矢場久根の制服に、ツインテールの髪型をした、かわいい少女。
しかし、雰囲気は、
まるで
悪魔のようであった。
マジすか学園3☆#9ー5☆
病院ー
「わからへんなー。前田の行きそうなとこやなんて」
チームホルモンの五人は、前田の行方をさがし、キョウトが入院している病院に来ていた。
「あ…」と、何かに気づいた様子のキョウト。
「その花、昨日はなかった気ぃする…」
枕元の台の上の花瓶に、一輪の可憐な花が挿してあった。
ウナギは、人差し指を立て、病床(ベッド)の周りを歩き出す。
「つまり、こういうことだね、ワトソンくん。昨日の消灯時間から、今朝、キョウトくんが目覚めるまでの間に、何者かによって、飾られたものである、と。あえて、面会時間を避け、顔を見られることをきらった人物。そう、それこそ、まさに真の犯人…」
「誰が、ワトソンくんだよ!お前は名探偵かっての…」
ウナギの推理口調に、助手呼ばわりされたバンジーが非難の声をあげる。
「しゃべりすぎだ…、ペラペラペラコかよ…、たまには、ムクチにもしゃべらせてやれ」
ヲタも、ウナギに変なあだ名をつけて、ムクチをフォローするも、ムクチは相変わらず無口だった。
「…………」
「たしかに、その行動は前田っぽいな…、部室の奥にあった花とも同じだ…」
アキチャがそう言うと、チームホルモンも、全員うなずく。
「病院のひとに訊いてみたらどうやろか?」
とても建設的な意見が、キョウトから発せられた。
「ああ、この子ね…」
廊下を歩く看護師を引き止め、バンジーが前田の写真を見せると、あっさりとそんな答えが返ってきた。
「えっ!知ってるんですか?」
「ええ…、今日の朝早くに見かけたわね。それと、深夜に…、救急で運ばれて来た女の子がいてね…、この子が付き添ってたから、よく覚えてるわ」
「深夜に!?その運ばれて来た子って?」
そのとき
後ろの病室の名札に気づくムクチ。
そこには、聞き覚えのある名前が記されてあった。
『岸野リカ』とー。
昨夜ー
自室で勉強していた前田は、言いようのない胸騒ぎを感じ、家を飛び出した。
しばらく行くと
身体を引きずるようにして、歩いてくる人影を見つける。特攻服の少女。顔のあたりから、ぽたぽたと滴り落ちているのは汗ではなく、血だった。
前田を見て、安心したのか、崩れ落ちる少女。
前田がかがみ込み、抱きかかえてみると、その少女はディーヴァの軍師、岸野リカだった。
全身を殴られた傷跡。特攻服は血に染まっていた。軍を動かし、マジ女に敗北した責任をとらされた形の制裁だと思われた。
『前田…、逃げ…ろ…、みんな…、殺される…』
『岸野!』
『明日の…夜…、総…攻撃…』
『しっかりしろ!』
『お前には…感謝しとる…、だから、生きとってほしい…、総帥には…関わるな…、本当に恐ろしい“ひと”なんや…、お前の親友…“高橋みなみ”も…』
言い終える前に、岸野は意識を失った。
ほとんど、最後は聞き取れないくらいの声だった。
“高橋みなみ”の“死”に、ディーヴァが関わっている?
前田は、救急車で病院まで付き添ったあと、家に戻った。岸野の言ったことが頭をかけ巡る。
そして、机に向かったまま…、眠れない夜を過ごした。
明け方ー
決意を固めた前田は、立ち上がり、朝日が射し込む窓を開ける。
おもむろにハサミを取り出し、自身の綺麗な黒髪にあてた。
(みなみ…、行ってくるよ…)
はらはらと舞い散る黒髪。
窓から吹き込む風は、どこまでもやさしく、前田の頬をなでていった。
「わからへんなー。前田の行きそうなとこやなんて」
チームホルモンの五人は、前田の行方をさがし、キョウトが入院している病院に来ていた。
「あ…」と、何かに気づいた様子のキョウト。
「その花、昨日はなかった気ぃする…」
枕元の台の上の花瓶に、一輪の可憐な花が挿してあった。
ウナギは、人差し指を立て、病床(ベッド)の周りを歩き出す。
「つまり、こういうことだね、ワトソンくん。昨日の消灯時間から、今朝、キョウトくんが目覚めるまでの間に、何者かによって、飾られたものである、と。あえて、面会時間を避け、顔を見られることをきらった人物。そう、それこそ、まさに真の犯人…」
「誰が、ワトソンくんだよ!お前は名探偵かっての…」
ウナギの推理口調に、助手呼ばわりされたバンジーが非難の声をあげる。
「しゃべりすぎだ…、ペラペラペラコかよ…、たまには、ムクチにもしゃべらせてやれ」
ヲタも、ウナギに変なあだ名をつけて、ムクチをフォローするも、ムクチは相変わらず無口だった。
「…………」
「たしかに、その行動は前田っぽいな…、部室の奥にあった花とも同じだ…」
アキチャがそう言うと、チームホルモンも、全員うなずく。
「病院のひとに訊いてみたらどうやろか?」
とても建設的な意見が、キョウトから発せられた。
「ああ、この子ね…」
廊下を歩く看護師を引き止め、バンジーが前田の写真を見せると、あっさりとそんな答えが返ってきた。
「えっ!知ってるんですか?」
「ええ…、今日の朝早くに見かけたわね。それと、深夜に…、救急で運ばれて来た女の子がいてね…、この子が付き添ってたから、よく覚えてるわ」
「深夜に!?その運ばれて来た子って?」
そのとき
後ろの病室の名札に気づくムクチ。
そこには、聞き覚えのある名前が記されてあった。
『岸野リカ』とー。
昨夜ー
自室で勉強していた前田は、言いようのない胸騒ぎを感じ、家を飛び出した。
しばらく行くと
身体を引きずるようにして、歩いてくる人影を見つける。特攻服の少女。顔のあたりから、ぽたぽたと滴り落ちているのは汗ではなく、血だった。
前田を見て、安心したのか、崩れ落ちる少女。
前田がかがみ込み、抱きかかえてみると、その少女はディーヴァの軍師、岸野リカだった。
全身を殴られた傷跡。特攻服は血に染まっていた。軍を動かし、マジ女に敗北した責任をとらされた形の制裁だと思われた。
『前田…、逃げ…ろ…、みんな…、殺される…』
『岸野!』
『明日の…夜…、総…攻撃…』
『しっかりしろ!』
『お前には…感謝しとる…、だから、生きとってほしい…、総帥には…関わるな…、本当に恐ろしい“ひと”なんや…、お前の親友…“高橋みなみ”も…』
言い終える前に、岸野は意識を失った。
ほとんど、最後は聞き取れないくらいの声だった。
“高橋みなみ”の“死”に、ディーヴァが関わっている?
前田は、救急車で病院まで付き添ったあと、家に戻った。岸野の言ったことが頭をかけ巡る。
そして、机に向かったまま…、眠れない夜を過ごした。
明け方ー
決意を固めた前田は、立ち上がり、朝日が射し込む窓を開ける。
おもむろにハサミを取り出し、自身の綺麗な黒髪にあてた。
(みなみ…、行ってくるよ…)
はらはらと舞い散る黒髪。
窓から吹き込む風は、どこまでもやさしく、前田の頬をなでていった。