マジすか学園3☆#10ー4☆
強くなりたかったー
誰よりも強くー
そしてー
輝くものをー
手にしたかった…
城が目を覚ましたとき、心配そうに見つめる隊員たちが、視界(まわり)を埋めつくしていた。そのなかに、前田とアヤメの姿は、なかった。
「前田は…?」
悲しそうに俯く隊員たち。うなだれる。
「そうか…、うち、負けたんやな…」
身体を起こそうとするが、起き上がることは出来なかった。
軽く笑う城。
「そういや、あいつ…、拳しか使わんかったな…」
前田は、闘いのなか、ボクシングスタイルを最後まで貫き通した。
「すごいヤツやったな…」
(ハル姉…、
うち、何も変わっとらんかった…、あのときの弱いままやった…、けど…、また、夢追いかけてみることにするわ…、今度こそ、あきらめんと…、“マジ”に…)
その頃ー
アヤメは傷ついた前田に肩を貸しつつ、“エリア”内を歩いていた。人目につかないような裏通りをー。
「前田、大丈夫?」
「大丈夫…」
強がっているのが見てとれ、苦笑するアヤメ。
「…、周りのみんなの苦労が偲ばれるニャ」
「次は…、“エリアE”か、“エリアG”だな…」
“エリア”は、将軍が治める区域によって、複数に分けられていた。城の治めていた区域が、“エリアF”だった。
ふと、ディーヴァ隊員から奪った戦利品(ケータイ)にメールが届いたのに気づくアヤメ。
画面を見て、少し考えるような仕草をする。
「どうしたの?」
「いや、迷惑メールだったよ。まぁ、落ち着いて。水でも飲んでニャ」
おもむろに
ペットボトルの水を、前田の口に含ませた。渇いた喉が潤う。
「落ち着いていられないよ…急がないと…、ディーヴァが…東京を…狙っ、て…」
突然ー
急激に襲い来る睡魔。
瞼が重い。ひざをつく。
前田はそのまま、ずるずると、抗うことも出来ず、深い眠りに落ちていった。
「効き目抜群だな…」
アヤメが前田に渡した水は強力な睡眠薬入りのものだった。
「戦場での教訓、その1、
簡単にひとを信用してはいけない…」
アヤメの片手にあるケータイの画面には、次のような文字がー
『前田を捕らえた者に、報奨金一千万円、及び、希望のものを与える。獲物の生死は問わない』
遠くで、ディーヴァの隊員たちによる、前田を捜索する声が、ひときわ轟いていた。
“エリアE”
一羽の鷹が、弧を描き、高層ビルの屋上に舞い降りた。
屋上には、銀灰色(グレイ)の特攻服の少女がいた。ディーヴァ十二将のひとり。
つぶらで黒目がちな瞳のかわいい少女。前髪はきっちり揃えられていた。
左腕には、鉄製の手甲をはめている。その上に隻眼の鷹が佇んでいた。少女は親しみを込め、“マサムネ”と呼ぶ。
「そうか、エリコが負けたんか…」
少女と鷹は
幼少の頃から姉弟のように育った、離れ難き二つの魂。言葉は違えども、お互い、通じ合うことができていた。
「うちらの出番やな…、うちらが行くまでに誰かに殺られとらんと、いいけど…、ほな、行くで」
“マサムネ”は承知したと言うように小さく鳴くと、
ふたたび
大空に羽ばたいた。
少女の瞳が輝く。獲物を狩るハンターのように鋭く。
マジすか学園3☆#10ー3☆
「早く、鍵を開けろ!救急車だ!」
アヤメが、リングを囲うようにそびえ立つ金網に備えつけられた扉を叩きつける。内からも外からも閂のような鍵がかけられるようになっていた。
城が、扉のほうに近づき鍵を開けようとし、止まる。
「…ぐはっ!」
血を吐く城。胃液が逆流する感覚。
「な…、なんでや…、やつの拳は当たってへんのに…」
アドレナリンによって抑えられていた激痛が、鍛え上げられた腹部を熱く燃やす。
前田の“龍神”の拳圧は、城のボディに届いていたのだ。
「最後の悪あがきか…」
苦しげに笑う城。
しんと静まり返ったジム内に、ざわめきが、さざ波のように広がっていった。
皆の視線が、城の後方に注がれる。
目を瞠るアヤメ。
城が勢いよく振り返った。
信じられないことが起こっていた。
完全に意識を失ったはずの前田が立ち上がろうとしている。
まともに、城のチョッピングライト(打ち下ろしの右)をくらい意識がすぐに戻るはずがない。下手をすれば命にかかわる衝撃のもの。
それなのにー
「そうか…、スリップしとったんか」
城の想像通り
前田はインパクトの瞬間、足を滑らせることにより衝撃を逃がしていたのだった。それによって、最悪の状況は免れた。前田のおそるべき危機回避能力。野生のカン。
それでもー
「もう、立っとるだけやないか、そんなんで、やれるんか?」
立ち上がりはしたものの、城の言う通り、闘えるようには見えない。ふらつく足元。ボロボロの身体。
しかし、前田は拳をゆっくり上げ、ファイティングポーズをとる。闘う意志があるということを示していた。
「普通やったら、レフリーストップもんやけど…、こうなったら、どうなっても知らんで!」
「前田!やれるのか!?」
アヤメが心配そうに問いかける。
ゆっくりと頷く前田。
瞳に輝きを取り戻す。
風が止んでも、風が消えてしまうことはない。
何度でも、風は吹く。
そして、またー。
前田の動きが、急激に変わった。
追いつめられれば、追いつめられるほど、前田は常に成長してきた。そして、今も。逆境を乗り越え。強く。
風が吹く。
攻め続けてきた城にも疲労の色がみえてきた。抜群のフットワーク、コンビネーションも今は、見る影もない。ボディへの一撃も深刻なダメージのひとつだった。
二匹の獣が、四角い荒野を駆け巡り、ぶつかり合う。
もはや、テクニックなど関係なかった。
交錯する拳。
ダウンの応酬。
「はぁ…はぁ…、どうや!?」
「はぁ…、はぁ…、いいパンチだ…」
城のパンチを傷だらけの顔に受け
にっこりと微笑む前田。
「しぶといな…、なんで…、そんな…、ボロボロになってまで…闘うんや?」
「いつだって…、“マジ”…だからな」
「わからんわ…、なんで組織にたてつく?死ぬ気か…」
「誰かのために…」
「誰か…?」
「そうだ…、過去に、組織(ディーヴァ)に虐げられたひとたち…、いまも、どこかで虐げられているひとたち…、そして…、未来(これから)、虐げられるかもしれない、そんな“誰か”のために…、わたしは闘う…、もうこれ以上、誰も、傷つけさせはしない!」
前田の傷ついた背中を見て、アヤメは何かを見いだす。
正義のため、友達(ダチ)のため、仲間のため、過去のため、そして…未来のため、すべてを背負い、闘う理由がそこにはあった。
「な…なんや、こいつ…、誰か(ひと)のために、やと…?そんなやつおらんわ!」
城には理解できなかった。私利私欲以外で動く人間がいることをー。
暴行事件のせいでオリンピック候補から外されたとき、まわりの取り巻きや大人たちは手のひらを返したように去っていった。事実は人助けのためだったのだがー。
そんな世間を憎み、背を向けた城。
苛立ちを前田にぶつけるかの如く、パンチを振るう。
前田は、その大振りのパンチを難なくかわし、右の拳で、城を吹き飛ばした。
「立て…、城…、お前のボクシングはそんなものか…」
「くそっ!」
立ち上がり、吠える城。
「うちを倒して、お前の言うこと、証明してみろや!」
「わかった…、これが…、最後だ…」
前田が、ゆっくりと両腕を下げた。
「ノーガード…?」
(捨て身か…)
瞳を閉じ、呼吸を整え、全身から“力み”をなくす。
(来いや…)
城が構える。右の拳にちからを込めて。
一瞬の静寂。
前田が、目を見開く。
風が吹いた。
荒れ果てた大地のようなリングに吹きすさぶ竜巻。
前田は、全身に捻りを加え、バネのようにすべてのエネルギーを左拳の一点に集約し、一気に、それをー
解き放った。
進化した“龍神”をー。
城の打ち込んできたパンチより、迅く。
城のボディへ。
斜め下から、アッパーでもフックでもない、いわゆるスマッシュのような軌跡を描き、前田の左拳が炸裂した。





がなかなか良い曲でホッとしています