ダメなのは学資保険ではなくFPでは? 続き | 池上秀司のブログ

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前回の続き。FP岩城みずほさんの「学資保険はダメ」という記事の問題点を指摘します。

 

途中、個人向け国債の有利な点が書いてありますが、チンプンカンプンです。特に③「最低金利が0.05%の利回りの有利性」という部分。学資保険は0.63%と0.34%と記事にあり、国債の最低金利を上回っています。しかも、これには「保障がついて」です(ここがわかっていない)。掛け捨て保険料を解消して、これだけの利回りを獲得できるということ。これが評価できないのは致命的です。

 

見出しの学資保険であれば300万円の保障がついていますが、個人向け国債にはこの保険の機能がありませんので、似た条件で比較するならば「学資保険⇔個人向け国債」ではなく、「学資保険⇔個人向け国債+掛け捨て保険」で考えた方がいいでしょう。

 

そこでですが、そもそも記事にある学資保険の0.63%という利回りは間違っていると思います。0.63%というのは、月々の積み立てではなく266万円を一括で預け入れ、18年間後に受け取り時の税金を無視して300万円受け取った場合の利回りです。一時金と積み立てでは利回り計算が違うのに、混同しているのではないでしょうか。

 

月々12,320円を18年(216)ヶ月積み立てて、受け取り時に20%課税される預貯金として考えると、1.63%程度の利回りとなります。学資保険は保障がついてこれだけの利回りだということです。

 

では、次に「個人向け国債+掛け捨て保険」を考えます。例えば、オリックス生命の「Fine Save(定期保険)」という商品は、34歳・男性・死亡保険金額300万円・保険期間20年で月払保険料は834円です(画像はオリックス生命の保険料試算ページのスクリーンショット)。

 

これを18年支払って解約するとします。学資保険の月払保険料12,320円から834円を引くと11,486円。この月11,486円が18年で300万円(税引き後)になるには、単純計算で2.5%程度の利回りが必要です(複利)。個人向け国債(変動10)は、保障がついていなくて現状0.05%しかありません。もちろん、将来利回りが上昇する可能性はありますが確証はありません

 

「月々の支払い原資11,486円×18年=248万円が、個人向け国債で運用して300万円になるか、ならないか」を議論する必要があるのに、それが完全に抜けています。そのくせ誤った利回り計算で「学資保険はダメ」と断定しているのですから、この発言こそがダメです。

 

岩城さんは、正しい数字を把握せずに、不確実な未来を断定しています。それによって損失が発生した場合、被害を被るのは顧客のみ。筆者も媒体も知ったこっちゃありません。完全にアウトです。あまりに無責任です。

 

では、なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。記事中、「人生の基本公式」というのがありますが、この岩城さんと経済評論家の山崎元さんが二人で創作した、よくわからない貯蓄の計算式です。二人で出した本に掲載されていて、今はこの本の販売に必死です。彼女の提案に信憑性も説得力もまったくないのですから、

 

この計算式を広める=本を売る

 

のが目的と勘ぐられても仕方ないでしょう。彼女は投資方面の助言に重きを置いていますし、共著者の山崎元さんも同様で、ライフネット生命を絶賛するような保険には疎い方なので、保険を否定して自分逹の立ち位置を確保するという、単なるポジショントークです。

 

「人生の基本公式」は客観的に評価されてきた訳でもなく、なにかの法則に従っている訳でもなく、長年研究した訳でもありません。何度も繰り返しますが、ただの創作です。FPとは、「お客様の生き方・考え方に合わせて金融商品を提案する」のが仕事なのに、この記事は「自分達が勝手に考えた公式に、お客様の人生を当てはめる」ということをしています。自分の価値観を押し付けているのですから、一番やってはいけないことと考えます。その結果、

 

・損失の大きい加入期間が短い保険を、損失を確実に解消する手段がないにも関わらず、払い済み保険にした
・そもそも、払い済みにできたのか?
・利回り計算を正しくしていない
・掛け捨て保険料を解消する確証がないにも関わらず、個人向け国債に振り替えさせた

 

のです。これでは非難、否定されて仕方ないでしょう。というか、事故レベルです。ですから、記事の後半は読むに値しません。時間の無駄です。

 

誰もが学資保険に入らなければいけないということではありませんが、選択肢の一つであることは間違いありません。盲目的に積み立て型の保険を否定する連中は大した知識もなく、予断と偏見の塊で、消費者よりも私利私欲を優先していますから注意が必要です。

 

【参考記事】

「学資保険はいらない」は本当か!?

「学資保険はいらない」は本当か!? その2

「学資保険はいらない」は本当か!? その3

学資保険、大いに結構